「──ほら!やっぱりなんかあったんだ」
小さく吐いたはずの言葉も
まんまと彼女の耳に届いてしまったらしく。
膨張する鼻の穴がすぐそこまで迫り、私は例のごとく後ずさる。
「サ〜ヨちん」
「ちょ、ちょ綺世」
「私たち、お友だちだよね」
「わ、わか、わかった言う言う!言うから!」
あの夜、忘れられないのは綺世に対しても同じこと。
(…怖かった)
その腕が惑うことなく私の胸元へ伸びてくるのを察知しすかさず両手を掲げる。
お手上げのポーズ。
危うく教室の天井に祀り上げられるところだった、と笑う。
「…言うよ…」
「ちゃんと聞いてるよ!」
「…わかったよ」
どこから話そう。
どこまで話そう。
全部。
彼女には全部話そうか。
うん。
きっと、それがいい。
ゆっくりと口を開く。
「…それがさ、」
あの日あったことを、綺世には包み隠さず話すことにした。
なんだかそっちの方が
色々とこの先、楽な気がした。
