お母さんは、テニス部の入部について、最初は反対意見だった。
「私の研究の時間を潰したいの?そんなのダメに決まってるじゃない」
そんなつもりはない。けれど、ただメモを取っているだけより、るいと部活をした方が感情が大きくなるのではないかと予測しただけだ。
そんなことを言う暇もなく、お母さんは喋り続けていく。お母さんは、私をテニス部に入れたくないことがハッキリと伝わってくる。
その内入るのをを諦めて、時々話しかけてくれている、るいにも断りを入れた。あの明るいアオちゃんも勧誘してくれたけど、私は断った。
その後、何故か複雑な感情が芽生えた。嬉しいはずなのに、喜べない。
プログラムが作動しも、考えがまとまらない。
私は、きっとテニス部をやりたいんだと思う。けれど、私は何故そんなにテニス部に執着しているのだろう?
テニスの腕をもっと磨きたいから?否、プログラムされているから、私はどんなことでもできる。
どうして私は、テニス部に入りたいのだろう。
解けない疑問なんて、初めてだった。自分自身のこととなると、理解していると思い込んでいたけれど、いざ考えてみると中々理解できていないものなのだ。
お母さんは、テニス部に入るのを許可してくれた。「部活で何か感情が芽生えるかもしれないからね。この前、仮入部で嬉しいと感じたんでしょう?だったらいいじゃない。やってみましょう」
案外、あっさり許可してくれた。あんなに研究の時間を潰されることを嫌がっていたのに。
人間の感情は、コロコロと変わるもの。また一つ、学んだ。

入部してから、私の生活は大きく変わった。
一軍グループに所属していたけど、ハブられることが増えた。噂によると、私がマザコンだから、とかなんとか。
真桜だけはきっと友達のままでいてくれるだろう、と思っていたけれど、案外あっさりと私たちは離れてしまった。
人間は、人間を簡単に裏切ることができる。また一つ、学んだ。
少し、悲しいと感じた。喜怒哀楽、哀。
真桜は、私のことを友達と言ってくれたのに。あの言葉は嘘だったのか、と少し悲しくなった。
学校に来て、よかった。孤独感を味わえた。少しの悲しみを知った。

テニス部は、楽しかった。
アオという新しい友達もできて、るいとも部活を楽しめて。
正直、るいは友達なのかは分からなかった。友達だけど、アオとはまた違う意識がある。これがなんなのかは、分からなかった。
ある日、アオに「愛」を尋ねた。「好き」という感情を尋ねた。
私のるいに向ける感情は、この二つに近かったから。感情は理解できるけど、「るいを好き」という事実があまり実感できなかった。
「友達」であるアオに「好き」を聞いてみようと考え、アオは何故か顔を強張らせながら答えてくれた。
「『あの人を見るだけで、声を聞くだけで幸せ!笑顔になっちゃう!』…みたいな?」
アオは、どこか遠くを見上げていた。何か愛おしそうなものでも見るような目で、どこかを。
きっと、アオにも好きな人がいるんだろう。素直に応援したいと感じた。
アオに、るいが好きだと打ち明けた。
るいには芽流ちゃんという彼女がいるから、諦めな、と言われた。
気持ちに確信を持てなかったけど、どうやら私は本当にるいのことが好きらしい。

好きという気持ちになれた、これで本当に「好き」を理解できた。

学校に来て良かった。沢山のことを学べた。
人間には、いい人と悪い人がいる。
人間は、すぐに人を裏切る。
嬉しい、悲しい、好き。
友情の温かさ。好きな人への気持ち。
本当に、沢山のものを貰った。