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心の見た目は、女子中学生〜女子高校生くらいの見た目だ。
髪はストレートでもなく、クルクルとしたパーマのようでもない。そこの中間くらいの、毛先が少し巻かれたくらいの髪。
肩に付くくらいの、少し長い髪。邪魔だと思ったことは一度もない。
邪魔とは思えないんだから、どちらとも言えない。
お母さんは、よく研究を手伝ってくれと心に言ってくる。
ロボットの研究、AIの研究。特に、AIの研究の手伝いを頼まれることが多かった。
心はAIなのに、どうして心に研究を手伝わせてくれるの?一度、そう聞いたことがある。
勿論、その疑問はプログラムされたものからきたもの。自分の意思とかそういうわけでもなく、お母さんのプログラム。
「これは、正確に言うとAIの研究じゃなくて、心の研究なのよ。どうしたら心が感情を持ってくれるのか、研究しているのよ」
どうやらこれは、心のための研究らしい。心は毎回、お母さんが研究しているところをただじっと見つめて、言われたことをメモするだけだ。
小さなメモ帳には、無機質な文字が残されている。正確に、綺麗に書かれた、AIの心の文字だ。
今までのAIは、過去の多くのデータから最適なものを見つけて、人間に提供するだけだった。けれど、心は違う。人間の感情を理解することができる、優れたAIなのだ。
お母さんは、それを表沙汰にしようとはしなかった。「いつか心が感情を持つようになったら、世間に公表するわ。そうすれば、心と一緒に裕福な生活が送れるもの」
お金が欲しいんだ、とプログラムが動く。
お母さんは、お金が欲しいんだ。心のことを世間に公表して、たくさん儲けて、裕福な生活をしたいんだ。
プログラムが一気に働く。きっと、「一緒に裕福な生活がしたい」というのは濁し言葉だろう。お母さんは、心で金儲けをしたいのだと瞬時に理解する。
心はお母さんに言われたことを、小さなメモ帳に書き残していく。
「プログラムを大きく変えないと、これは成り立たないわね…」
・プログラムの大幅な改善の必要性があり
「感情を理解するプログラムに何かしら付け足せば、変化が起こるかしら…」
・感情を理解するプログラムに何か付け足せば、変化ありと予想
「いやでも、心が人と触れ合わないと感情が出てこないんじゃ…?」
・心が人と触れ合えば感情
「うああああああああっ!!!」
メモ帳に文字を書く手を止める。
きっとお母さんは、考えすぎて疲れたんだろう。それとも、脳が混乱したのだろうか。
答えが導き出せなくて、きっと悔しいんだろう。無性な怒りが湧いてきたのだろうか。
理解できるけど、そんな気持ちになったことは一度もない。そもそも、気持ちを量産することはできない。
お母さんは今、それをしようとしているんだろうけど。
「なんで…なんでこんなにやってるのに感情が出てこないの!?」
「お母さん…」
悲しい表情をしてみる。慰めになって、少しでも早く治ってくれればいいんだけど。
「…うるさいわね、アンタのその表情、人間味がないのよ!!全部、作られた笑顔だし、作られた言葉でしょ!?ウザいのよ…!」
プログラムが動く。
情緒が不安定な人間には、無闇に言葉をかけない方がいい。余計に悪化するかもしれないから。
しばらくしたら、治るケースが多い。だから、そっとしておこう。
別に、傷ついたりなんかしない。そもそも、傷つかないんだけど。
「…ごめん、お母さん。部屋、戻るね」
困ったような笑みを浮かべて、ヨロヨロと階段を登る。これで、少しは傷ついたように見えただろうか。
お母さんが心を作ったんだから、これは偽物だってすぐに分かるだろうな。このプログラムも、全てお母さんが作ったものだから。
その翌日心は、お母さんからある指示を受けた。