I
調理実習。
エプロンを着て、三角巾を頭に着けて、料理を作る。
三角巾なんかダサいけど、衛生上なんちゃらかんちゃらって担任が説明していた気がする。
うちのお母さんは三角巾なんか着けないのに。面倒くさいけど、みんなでカレーを作るという楽しみの方が勝っているから、なんとも言えない。
「それにしても、あっついねぇ…」
エプロンの紐をリボン結びにしながら、隣にいる芽流に話しかける。
九月もそろそろ終わりを迎えようとしているのに、残暑が厳しいせいでまだ暑い。余裕で三十度なんかいっちゃうし、もう勘弁してほしい。
「ね、ほんとに暑い。いつまで続くんだろ」
「去年は十一月くらいで寒くなってきたから…どうだろうね」
嫌いな季節が一番長いとか、マジで最悪。やってらんない。夏はザ・青春!って感じで好きなんだけど、虫もいるし、暑いし、欠点が多すぎる。
家庭科室は、日の当たりやすい場所に位置している。教室よりも遥かに暑い気がして、ため息が出てくる。
「マジであっつい…水ぶっかけられても今なら感謝できる気がする」
「いや、それは流石にないだろ。バカなの?」
肩にポンッと手を置かれた気がして、振り向く。聞き馴染みのある声。まさかね、と思いながら、相手を見る。
「…るい?」
「アオ、料理出来んの?絶対出来なさそうなんだけど」
芽流と別れてから、部活以外で話しかけてくることなかったのに。
「失礼だね、るい。私だって料理くらいできるし」
いつもの調子で返すものの、内心では動揺している。え、なんで?部活以外では明らかに「話さないでください」って感じのオーラ全開だったのに。
「…るい、なんで?」
芽流もきっと見ているんだろう。怖過ぎて見れないから、るいに小声でそう言う。
「いやー、なんか友達なのに部活以外で話さないっておかしいって思ってさ。アオもそう思うだろ?」
「そう、だけど…」
アンタさ、芽流のこと考えられないの?色々あって別れたんでしょ?私に話しかけてこなかったのに、急に来るのはおかしくない?
それに最近は、るいから振ったって噂も聞くし。それが本当かなんて知らないし確証ないけど、もしかしたら――って最近思ってしまう。
芽流はこっちには見向きもせず、三角巾を頭に巻いている。よかった、聞かれてない。
「…芽流と気まずいんじゃないの?」
「まあ俺から振ったし。別に気まずいとかはないよ。話しかけられたら普通に話せると思う」
なんだコイツ、と思った。
じゃあなんで振ったんだよ…。浮気とかはなさそうだけど。
「なんか、楽になったっていうか、今なら友達感覚で本音言えるかなーって思って」
「…ふーん」
まあ、部外者の私からしたら分からないこともあるんだろうけど。何も知らない私が二人の領域に乗り込んで行っても、損しかないと思う。
そっとしておいた方がいいよね、きっと。〝元カップル〟の二人の世界は、よく分からないし。
先生から「早く準備しろー」と軽めのお説教が入り、クラスメイトみんなが急いでエプロンを着ていく。
私も焦って三角巾を取り出して、手っ取り早く頭に巻いていく。
「芽流、手洗いに行こ!」
「うん、行こ行こ」
二つ返事で、そう返してきた。
「そういえばさ、最近発売した――」
「知ってる、それ――」
他愛のない会話。日常。
壊れ始めるのは、あとちょっと。
調理実習。
エプロンを着て、三角巾を頭に着けて、料理を作る。
三角巾なんかダサいけど、衛生上なんちゃらかんちゃらって担任が説明していた気がする。
うちのお母さんは三角巾なんか着けないのに。面倒くさいけど、みんなでカレーを作るという楽しみの方が勝っているから、なんとも言えない。
「それにしても、あっついねぇ…」
エプロンの紐をリボン結びにしながら、隣にいる芽流に話しかける。
九月もそろそろ終わりを迎えようとしているのに、残暑が厳しいせいでまだ暑い。余裕で三十度なんかいっちゃうし、もう勘弁してほしい。
「ね、ほんとに暑い。いつまで続くんだろ」
「去年は十一月くらいで寒くなってきたから…どうだろうね」
嫌いな季節が一番長いとか、マジで最悪。やってらんない。夏はザ・青春!って感じで好きなんだけど、虫もいるし、暑いし、欠点が多すぎる。
家庭科室は、日の当たりやすい場所に位置している。教室よりも遥かに暑い気がして、ため息が出てくる。
「マジであっつい…水ぶっかけられても今なら感謝できる気がする」
「いや、それは流石にないだろ。バカなの?」
肩にポンッと手を置かれた気がして、振り向く。聞き馴染みのある声。まさかね、と思いながら、相手を見る。
「…るい?」
「アオ、料理出来んの?絶対出来なさそうなんだけど」
芽流と別れてから、部活以外で話しかけてくることなかったのに。
「失礼だね、るい。私だって料理くらいできるし」
いつもの調子で返すものの、内心では動揺している。え、なんで?部活以外では明らかに「話さないでください」って感じのオーラ全開だったのに。
「…るい、なんで?」
芽流もきっと見ているんだろう。怖過ぎて見れないから、るいに小声でそう言う。
「いやー、なんか友達なのに部活以外で話さないっておかしいって思ってさ。アオもそう思うだろ?」
「そう、だけど…」
アンタさ、芽流のこと考えられないの?色々あって別れたんでしょ?私に話しかけてこなかったのに、急に来るのはおかしくない?
それに最近は、るいから振ったって噂も聞くし。それが本当かなんて知らないし確証ないけど、もしかしたら――って最近思ってしまう。
芽流はこっちには見向きもせず、三角巾を頭に巻いている。よかった、聞かれてない。
「…芽流と気まずいんじゃないの?」
「まあ俺から振ったし。別に気まずいとかはないよ。話しかけられたら普通に話せると思う」
なんだコイツ、と思った。
じゃあなんで振ったんだよ…。浮気とかはなさそうだけど。
「なんか、楽になったっていうか、今なら友達感覚で本音言えるかなーって思って」
「…ふーん」
まあ、部外者の私からしたら分からないこともあるんだろうけど。何も知らない私が二人の領域に乗り込んで行っても、損しかないと思う。
そっとしておいた方がいいよね、きっと。〝元カップル〟の二人の世界は、よく分からないし。
先生から「早く準備しろー」と軽めのお説教が入り、クラスメイトみんなが急いでエプロンを着ていく。
私も焦って三角巾を取り出して、手っ取り早く頭に巻いていく。
「芽流、手洗いに行こ!」
「うん、行こ行こ」
二つ返事で、そう返してきた。
「そういえばさ、最近発売した――」
「知ってる、それ――」
他愛のない会話。日常。
壊れ始めるのは、あとちょっと。



