「今田さんって、絶対るいに色目使ってるよね。気をつけた方がいいよ」
「今田さんに部活の時以外近づかないで。できれば部活の時もそんな一緒にいてほしくないけど」
「…行こ、あそこに今田さんいるから」
芽流はいつも、こんな感じだ。
最近、一軍って怖いな、って思ったことがある。
心は、最近教室内で孤立することが増えた。
〝心マザコン説〟が浮上して、決定的にそれが発覚してしまった時あたり。
次第に一軍達は心と距離を置くようになり、やがてお弁当も、移動教室の時も、一緒にいることはなくなってしまった。
徹底的に話さないようにしているわけではなさそうだった。ただ、話しかけられたら必要最低限のことだけ話す、みたいな。
心も「自分は避けられている」ということを察したのか、次第に一軍に話しかけることはなくなっていった。
そのため、心はほぼ教室で孤立しているのである。
一軍、というか人間って怖いな、って思った。
そんな簡単に、「少しお母さんへの愛が重い」という事実だけで、友達を切り捨てるなんて。
人間って、どうかしてる。自分の都合しか、結局は考えないんだなぁと感じた。
たまに、アオが声をかけに行ったりしているのは見かける。でも、それの大半はいつも芽流に引き止められるから実行できない。
俺となったら話は別だ。話しかけに行かせるなんて、まず芽流が許してくれるはずもないから。部活で話せていればそれでいいし、第一あまり話そうとは思わない。
俺も、心にそれは望んでいない。芽流に「浮気」と疑われたくないから、あまり部活以外では話しかけてほしくないな、と思っていたところ。
ところ、なんだけど。
「あ、るい。このスマッシュってどうやるかわかる?」
適当にスマホを弄っていた心が、俺に話しかけてきたのである。
勿論、隣には芽流もいる。その隣には、芽流の机に両手を置いて固まっているアオも。
「……」
芽流は黙って、心の方を見ている。静かに睨みつけるように、心を見ている。
目の中は、怒りで燃えていた。どうして、そんなに心が嫌いなんだろう、とただただ疑問に思うばかりだ。
最近は、芽流の依存や、心に対する怒りも慣れた。けど、本人の前でその怒りを露わにするのはやめてほしい。俺と心の関係も、危うくなってしまうと思うから。
「…芽流、部活の話だから、ごめん。ちょっと行ってくる」
耳打ちでそう伝え、心に「うん、いいよ」と笑顔で返答する。心と話すのは楽しいけど、それはもしかしたら部活の時に限ってなのかもしれない。
俺は心の席まで移動する。その距離が遠いのか近いのか、よく分からなかった。
「…心、テニスの話は部活にすればいいじゃん?今ここでしなくても…」
「分かってるよ。でも、話したいことは違うことなの」
え、と声に出し、俺は訳がわからない、と言うように首を傾げる。
「…それ、どういうこと?」
心は真剣な顔つきになり、息を大きく吸い込んだ。
…のにも関わらず、心は息を殺すように、スッと小さな声で、こう聞いてきた。
「…るい、最近悩んでることない?」
「…え」
別にないよ、と答えようとした。でも、声には出せなかった。
何故かは分からない。でも、何かが喉の奥で絡まったかのように、突っかかって声が出なかった。
別に、悩みなんてない。思い当たるものなんて、何もない。
俺を困らせていることなんか、一つもないから。
「…ないよ」
ある限りの力を振り絞って、声に出した。消えそうな声で、そう答えた。
「…じゃあ、部活で。悩みとかないから、安心してね!」
心に対して、偽りの笑みを浮かべたのは初めてだった。なんとも言えない後悔と罪悪感が頭の中を埋め尽くす。
それでも、堪えて。吐き出しそうになった衝動をグッと堪えた。
そうだ、俺に悩みなんてないんだから。吐き出す必要もない、どうでもいいことならあるけど。
最近お母さんと少し口論になったとか、勉強が上手くいかないとか。そんなどうでもいい悩み。
聞いてもらわなくても、いい悩み。
「…また、後でね」
心がそう言って、手を振る。
少し思いつめたような顔をしていたことを、今でも鮮明に覚えている。
「るい、スマッシュ教えてー!」
「おっけー、どんな感じ?」
「中々…なんかこう、スパーン!っていかなくてさ。るい、めっちゃスマッシュ上手いでしょ?教えて教えて!」
「心はサーブ上手いもんな。サーブめちゃうま×スマッシュめちゃうまコンビって、最強じゃね?」
「うわぁ、確かに!るい最高!バンザーイ!」
「ははっ、よーし、スマッシュやるか!」
その後の部活では、いつも通り、普通に話せた。
さっきのことなんて何もなかったかのように、接してくれた。
今ではなんでも本音で話せる心。いつか、相談してみようかな、なんて。
「今田さんに部活の時以外近づかないで。できれば部活の時もそんな一緒にいてほしくないけど」
「…行こ、あそこに今田さんいるから」
芽流はいつも、こんな感じだ。
最近、一軍って怖いな、って思ったことがある。
心は、最近教室内で孤立することが増えた。
〝心マザコン説〟が浮上して、決定的にそれが発覚してしまった時あたり。
次第に一軍達は心と距離を置くようになり、やがてお弁当も、移動教室の時も、一緒にいることはなくなってしまった。
徹底的に話さないようにしているわけではなさそうだった。ただ、話しかけられたら必要最低限のことだけ話す、みたいな。
心も「自分は避けられている」ということを察したのか、次第に一軍に話しかけることはなくなっていった。
そのため、心はほぼ教室で孤立しているのである。
一軍、というか人間って怖いな、って思った。
そんな簡単に、「少しお母さんへの愛が重い」という事実だけで、友達を切り捨てるなんて。
人間って、どうかしてる。自分の都合しか、結局は考えないんだなぁと感じた。
たまに、アオが声をかけに行ったりしているのは見かける。でも、それの大半はいつも芽流に引き止められるから実行できない。
俺となったら話は別だ。話しかけに行かせるなんて、まず芽流が許してくれるはずもないから。部活で話せていればそれでいいし、第一あまり話そうとは思わない。
俺も、心にそれは望んでいない。芽流に「浮気」と疑われたくないから、あまり部活以外では話しかけてほしくないな、と思っていたところ。
ところ、なんだけど。
「あ、るい。このスマッシュってどうやるかわかる?」
適当にスマホを弄っていた心が、俺に話しかけてきたのである。
勿論、隣には芽流もいる。その隣には、芽流の机に両手を置いて固まっているアオも。
「……」
芽流は黙って、心の方を見ている。静かに睨みつけるように、心を見ている。
目の中は、怒りで燃えていた。どうして、そんなに心が嫌いなんだろう、とただただ疑問に思うばかりだ。
最近は、芽流の依存や、心に対する怒りも慣れた。けど、本人の前でその怒りを露わにするのはやめてほしい。俺と心の関係も、危うくなってしまうと思うから。
「…芽流、部活の話だから、ごめん。ちょっと行ってくる」
耳打ちでそう伝え、心に「うん、いいよ」と笑顔で返答する。心と話すのは楽しいけど、それはもしかしたら部活の時に限ってなのかもしれない。
俺は心の席まで移動する。その距離が遠いのか近いのか、よく分からなかった。
「…心、テニスの話は部活にすればいいじゃん?今ここでしなくても…」
「分かってるよ。でも、話したいことは違うことなの」
え、と声に出し、俺は訳がわからない、と言うように首を傾げる。
「…それ、どういうこと?」
心は真剣な顔つきになり、息を大きく吸い込んだ。
…のにも関わらず、心は息を殺すように、スッと小さな声で、こう聞いてきた。
「…るい、最近悩んでることない?」
「…え」
別にないよ、と答えようとした。でも、声には出せなかった。
何故かは分からない。でも、何かが喉の奥で絡まったかのように、突っかかって声が出なかった。
別に、悩みなんてない。思い当たるものなんて、何もない。
俺を困らせていることなんか、一つもないから。
「…ないよ」
ある限りの力を振り絞って、声に出した。消えそうな声で、そう答えた。
「…じゃあ、部活で。悩みとかないから、安心してね!」
心に対して、偽りの笑みを浮かべたのは初めてだった。なんとも言えない後悔と罪悪感が頭の中を埋め尽くす。
それでも、堪えて。吐き出しそうになった衝動をグッと堪えた。
そうだ、俺に悩みなんてないんだから。吐き出す必要もない、どうでもいいことならあるけど。
最近お母さんと少し口論になったとか、勉強が上手くいかないとか。そんなどうでもいい悩み。
聞いてもらわなくても、いい悩み。
「…また、後でね」
心がそう言って、手を振る。
少し思いつめたような顔をしていたことを、今でも鮮明に覚えている。
「るい、スマッシュ教えてー!」
「おっけー、どんな感じ?」
「中々…なんかこう、スパーン!っていかなくてさ。るい、めっちゃスマッシュ上手いでしょ?教えて教えて!」
「心はサーブ上手いもんな。サーブめちゃうま×スマッシュめちゃうまコンビって、最強じゃね?」
「うわぁ、確かに!るい最高!バンザーイ!」
「ははっ、よーし、スマッシュやるか!」
その後の部活では、いつも通り、普通に話せた。
さっきのことなんて何もなかったかのように、接してくれた。
今ではなんでも本音で話せる心。いつか、相談してみようかな、なんて。



