私は先日、ある一人の同級生を殺害しました。
名前は…一応伏せておきます。まあ今の時代、どうせ特定されると思うのですが。
彼の名は…ここではRと呼んでおきましょう。
Rは私の彼氏です。とても明るく、優しい人でした。
私は…Mとでも名乗っておきましょうか。MとRはカップル、自分で言うのは気が引けますが、私達は学校中の誰もが知るカップルでした。
彼とは中学一年の時に意気投合し、そのまま付き合うことになりました。
容姿端麗、性格イケメン。こんなにも全てが美しい彼が、私なんかと付き合っていいのかは、正直悩みました。
でもまあ、「好き同士なんだし、付き合ってもいいだろう」と考えをまとめましたが。
先に言っておきます。
彼は私のことを愛しています。私も、彼のことを愛しています。
これは大前提です。彼は、私のことを愛していたんです。
中学一年生の時は、とても幸せでした。
彼の友達とその彼女とダブルデートをしてみたり、二人でカフェに行ったり。
とても充実した毎日を送り、思いっきり青春を楽しんでいました。
私の親友、Aは、とてもボーイッシュでサバサバとした性格だったので、すぐに打ち解けて仲良くなりました。
Rという最高の彼氏、Aという大切な親友。
中学に入って両方を手に入れた私は、その先のキラキラと輝く人生を、信じて疑いませんでした。
だって、こんな幸せの中、誰もが想像するわけないでしょう?
私の身に、あんな悲劇が起こるなんて。
ああ、少し話が早すぎましたね。まあ、簡単に要約するとこんなところです。
・中一でRと付き合う。外見、性格も完璧
・Aという親友ができる。充実した毎日を送る。
ざっとこんなところでしょうか。
きっとこのブログを見てくださっている方は、私の過去など興味もないでしょう。
きっと、殺人についてのことを早く知りたいですよね?
分かりました。では私が犯罪を犯すまでの経緯をお話ししましょう。
そうですね、私が殺害したのは――、少女K。Kと呼びましょうか。
中学二年生になりました。
クラス替えをしても、RとAとは同じクラスになれました。それに加えて席も近く、強い幸福を味わったのを今でも覚えています。
「…R、A。一緒だよ!」
私は満面の笑みでそう言いました。
「やったーー!!マジで嬉しい、また一年間よろしくな!」
「M、めっちゃ嬉しい!素敵な一年にしようね!」
二人からそう言われました。誰にも邪魔されない楽しい一年にしようと、私は心に決めたのです。
そして、彼を他の女から守り抜くこと。彼は魅力的だから、警戒しないと沢山人が寄って来てしまうのです。
担任が決められ、始業式が行われ。新しい一年、つまり後輩も入ってきます。
この時の私が想像していたのは、〝一年の時と少し違うけど、楽しい中学生ライフ〟です。
二年生になってクラスも変わり、後輩もできます。新しい人間関係を築き、仲間と共に青春をする日々です。
まあこの叶うはずだった妄想も、Kによって打ち壊されてしまうのですが。

「こんにちは、Kです!〇〇中学校から来ました!」
Kは、ニコニコと笑みを浮かべながらそう挨拶をしました。
肩下くらいまでの髪をクルクルと巻き、校則ギリギリのメイクをかましてきている彼女。
普通に考えておかしい奴ですし、鼻の奥を刺激するような強めの香水が何よりも最悪でしたね。
今思えばとても媚びるような甘ったるい声で、吐き気がしそうなくらいです。
「みなさん、仲良くしてくれたら嬉しいです!よろしくお願いします!!」
Kは、深々と頭を下げました。その途端に、新しい教室は拍手に包まれました。
どうやらクラスメイトは、このKという人物を快く歓迎するようです。
私は一応その場の雰囲気に合わせて、小さく拍手をしました。
その時からすでに、彼女に対しての嫌悪感が芽生えていたのかもしれません。
Kは、すぐにクラスに溶け込み、馴染みました。
初日から声をかけられ、非常にコミュニケーション能力が長けているのか、常に相手に愛想良く振る舞い、クラスメイトからも気に入られていました。
ふんわりと優しく笑っているように見えるK。四月中旬頃には一軍と共に行動するようになり、明らかにクラスのトップに立つようになりました。
男女問わず親しまれる人柄は、次第に先生にも評価されるようになりました。
その優秀な能力から、転校生にも関わらず「生徒会に入らないか?」と先生から推薦があったそうです。
五月頃、Kが全ての仮入部を終えました。〝転校生も部活に入るのは当たり前〟という大人の基準で、一年生と共に全ての部を見学したのです。
Kは、とても運動神経が抜群に良いです。
仮入部で運動部の「お試し」があるのですが、その全てを完璧にこなしたと風の噂で聞きました。
体育の時間でも確実にAを取っています。運動能力がとても高いことから、「彼女は運動部に入るのだろう」ということが推測されていました。
Kは、部活に入ろうとしませんでした。
先生がどれほど「入らなくていいのか?勿体無いぞ」と説得しても、彼女は首を横に振るだけでした。
「お母さんが、入らないでって言ったの。だから私は部活に入りたくない」
仲の良い友達には、そう告げていました。私はその言葉を〝マザコン〟と捉えましたが、クラスメイトに噂が広がっていくうちに、「Kさんはお母さん思いの優しい人なんだ」と、彼女のイメージをアップさせていく発言ばかりでした。
きっと、今までのKのイメージは、〝Kは優しくて可愛い人〟だったのでしょう。
クラスメイトが思い描くKの人物像に、マイナスなイメージなんて一つもありません。
そこに〝マザコン〟という新たな情報を入れてしまったら、〝優しくて可愛い〟という理想のKが崩れてしまいます。
クラスメイトはそれを恐れ、「お母さんが言ったから部活に入らなかった」をいい意味で受け取り、彼女のイメージを保ったのでしょう。
一方私は、そんな彼女には目もくれず、青春を噛み締めていました。
今しかないこの瞬間を楽しまなきゃ。そんな思いで、学校生活を送っていました。
RもAも男女合同のテニス部に所属しているので、放課後はあまり遊べませんでしたが。
私は帰宅部で、一応部活に入っているとは言えますが、ただ家に直行するだけです。
高校は難関私立を受ける予定なので、部活に入っていません。
あのマザコンみたいな理由ではありません、断じて。私はただ勉強をしないといけないから、部活に入っていないだけなのです。
授業が終わった後は鞄に教科書を詰め込み、教室からテニス部へと向かうRと Aを送り出します。
その後は、ひたすら勉強に励みます。たった一人の教室で、静かに黙々と。
Kも帰宅部のようですが、「お母さんが待ってるから」という理由でいつも家に直行です。
Kの友達、一軍達は部活。大体は陸上部ですかね。
Kが早めに帰ってくれるのはありがたいです。私と話さなくて済むし、お互いに気まずい空気を共にする必要もありませんから。
二人の部活が終わるのと同時に、私は勉強道具を片付け、学校を出ます。
校門の前で二人を待ち、着替えてきた二人と共に帰るのです。
まあ、これが私の日課です、誰も興味はないと思うのですが。
Kは、しばらくして男女合同テニス部に入りました。
「お母さんからテニス部なら入ってもいいって言ってくれたの!すっごく優しいでしょ?」
彼女は一軍達にそう言い張っていました。
唖然としました。まさか、こんなもにマザコンだったとは思ってもいなかったので。
流石の一軍達も、これには耳を疑いました。「もう一回言って?」と聞き返していたのを覚えています。
「お母さんがテニス部なら入ってもいいって!でも私との時間を優先してねって言ってたから、照れちゃうなぁ〜」
単純に、Kの精神は理解し難いと思いましたね。
一軍達も一気に彼女と距離を置くようになりましたね。そりゃあこんなマザコンとつるみたくありません、仕方ないです。
私が最も警戒したのは、Kが〝男女合同テニス部〟に入ったことです。
男女合同テニス部は、RとAが所属しています。もしかしたら二人に何か危害を加えるんじゃないかと、不安で仕方ありませんでした。
彼女が男女合同テニス部に入った翌日、KのことをRと Aに聞いてみました。
「凄くいい人だったよ。優しくて、人柄いいよね。俺よりサーブ上手かった気がする。ちょっとボール打ってたけど、めっちゃ上手かった」
Rはそう答えました。
私は多少の不安を覚えました。
AはKの印象について、こう答えました。
「優しい子、って感じだよね。運動能力あるよ、あの子。正直マザコンだとは思ってなかったけど、凄い協力的。私はああいう子好きかな〜、あとサーブめっちゃ上手い!」
Aはそう答えました。
RとAの印象によると、Kは部活に協力的で、とても運動神経が良いということ。
ほとんどが印象通りでしたが、私は彼女に対しての嫌悪感を持っています。
それをどうしても拭い切れず、その時の私は〝Kをなるべく悪者に仕立て上げたい〟ということを無意識に考えていました。
きっと、何もかもが完璧なKに嫉妬し、自分とは真逆のタイプの人間の〝悪いところ〟を見つけたかったんだと思います。
Kは、コミュニケーション能力が非常に長けています。私にはこれっぽちも無い、羨ましいと感じる技術の一つです。
Kは、あまり勉強ができません。けれど、それをみんなに可愛がられ、「Kちゃん、教えてあげる!」とクラスメイトが快く教えてくれます。
私は勉強ができます。けれど、それを褒めてくれる人なんかいません。
無条件に愛されるあの子が羨ましかった 憎らしかった
どうして私のことは誰も褒めてくれないのでしょう?私の方が優秀に決まってるのに。
可愛ければみんなから愛されるのでしょうか?結局この世の全ては顔?
私の成績も努力も内面も誰も見てくれない。分かってくれるのは二人だけなんです。
二人だけ、だったのに。
これはただの空想です。空想でも、私はKのことを悪者として見たかったのです。
私はこう考えました。Kを悪者に仕立て上げるために。
〝Kは彼氏であるRに色目を使っている〟
そう仮説を立てました。
あくまでこれは妄想です。Kは何も悪くなかったし、全て私の邪悪な心なのです。
まさか、それが本当になるなんてね。
「Rくん、テニスについて聞きたいんだけど…」
Kは、次第に教室でRに話しかけてくるようになりました。
〝Kマザコン説〟が浮上した後、次第に一軍達は彼女と距離を取っていました。
段々と一緒に行動する時間も減っていき、遂にはK、クラスで孤立。
私は率直に、〝可哀想だな〟という感想を持ちましたね。
移動教室も一人、お弁当を食べる時も一人。
いつしか〝一人〟が当たり前になっていき、私は内心喜びました。
嬉しい、快感。完璧な彼女が孤立してくれるなんて。
やっぱり、人は内面をちゃんと見てくれているんだ。外見とか、そういうので人の価値は決まらないんだ。
私はとても喜びました。飛び上がるくらいに、クラスで孤立しているKを客観視するのが、楽しくて仕方なかったのです。
Kとはあまり話したことがないのに。その才能と外見、何より〝完璧〟な彼女に勝手に嫉妬しました。
「嫌われちゃえばいいのに」 そんな考え、夢が叶ってしまいました。
夢とは、不意に叶ってしまうものです。
それは唐突に。何気ない日常の中で、さらっと叶ってしまうもの。
そこに努力なんか存在しません。一生懸命頑張ってそれを掴み取ったのなら、どんな幸福を味わえるのでしょうか。
憎しみを含めた願いには、必ずひとつ後悔が残ります。
神様がそうしているのです。神様は嫌悪の感情を嫌悪しているのです。
そしてその神様を、誰かが嫌悪しているのです。 連鎖の続きは終わりません。
強い憎しみを持った願い事でも、「ちょっとした悪戯心」でも、神様はそんな感情を嫌うのです。
だから、神様はそんな私に罰を与えました。Kは、私の彼氏であるRに色目を使っている――。
それが本当になってしまうという、最高で最悪の罰です。
「Rくん、これってどうやればいいのかな…」
気持ち悪い、甘ったるい声。
「これはね、こうやって…そうそう」
それに答えてしまう、私の彼氏。
首を締め付けられた気がしました。
憎しみって、段々と悲しみに変わるんです。
そんな悲しみは、いつしか殺意に変わっちゃうんです。