【完結】悲劇の継母が幸せになるまで

ゴワゴワの髪を乱暴にとかされながら、ヴァネッサは信じられないことを聞いた。
ヴァネッサが今から嫁ぐのは、なんと人体実験を繰り返している恐ろしいシュリーズ公爵という男の元だという。
公爵を継ぐはずだった兄を殺して成り代わった恐ろしい人物だそうだ。
社交界はおろか、外に出たことがないヴァネッサはそれを聞いて恐怖から震えていた。
それをクスクスと笑いながら見つめる侍女たち。


『お前は旦那様に売られたのよ? シュリーズ公爵の奥様は二人いたけど、彼女たちも金で買われて次々と亡くなったんですって……!』

『表舞台には出てこずに屋敷にこもって研究ばかり。被害者はたくさんいるんですって……! お前も人体実験されて今までの妻と同じで死ぬのよ』

『そうそう。いらない令嬢を金で買っているのよ。最悪の嫁ぎ先ね。大金で売られたお前には今からどんな辛いことが待っているのかしら!』

『彼には一番目の妻との間に子どもがいるらしいけれど、彼女のために買っているって噂もあるわ。気に入られなければどうなるのかしら……』


持参金も荷物もいらないそうで、ヴァネッサは大金と引き換えに買われたらしい。
貴族の結婚について学んで知識だけしか知らないヴァネッサにとっては、彼女たちが言っていることがすべて事実に思えた。

(……わたしはシュリーズ公爵に殺されてしまうの?)