【完結】悲劇の継母が幸せになるまで

頭を押さえて丸まっていているヴァネッサは痛みがないことを不思議に思い、ゆっくりと顔を上げる。
そこでやっとティンナール伯爵ではないと気がついたのだ。


「……すまない」


次第に気持ちが落ち着いてきて、ヴァネッサの体から力が抜けていく。
その瞬間、うまく気持ちが切り替わったような気がしたが、ヒュッと喉が鳴ってまた咳き込んでしまう。

ヴァネッサの中のトラウマは物語よりもずっとひどく苦しいものだ。
記憶だけでもこんなにもつらく、体は反射的に動いてしまう。
だけどヴァネッサがこうなってしまうのも気持ちがわかるような気がした。

涙を拭ってから顔を上げた。
そこには困惑した表情の白衣を着た男性の姿があった。
今は眼鏡をかけている。
ヴァネッサが落ち着いたことがわかったのだろうか。
シュリーズ公爵も安心したように強張っていた表情が柔らかくなった。


「あなた、は……?」


ヴァネッサからは掠れた声が出た。


「自己紹介が遅れてすまない。俺は……ギルベルト・シュリーズだ」


やはり目の前にいるのはシュリーズ公爵で間違いないようだ。