【完結】悲劇の継母が幸せになるまで

私も彼女に感情移入していたのだ。
もしヴァネッサのそばにいられたら……そう思ったことを今でもよく覚えている。

シュリーズ公爵の後悔という番外編は読まないまま私は死んでしまった。
きっと彼やアンリエッタの関係に言及していたに違いない。

(あまりヴァネッサのことをよく知らないのよね……だけど、小説に書いてあるよりもずっとヴァネッサはひどい思いをしていたのね)

嫌がらせのように侍女たちに擦られた肌は熱を持ち血が滲んでいた。
耐えられない痒みは増していき、なんとか掻きむしるのを肌に爪を立てて耐えていた時だった。

ヴァネッサが考え込んでいると、冷たい風が吹き込んでくる。
いつの間にか扉が開いて、目の前に人が立っていた。


「……大丈夫か?」

「……っ!」


ヴァネッサは驚いて肩を跳ねさせた。
急に息を止めたせいで激しく咳き込んでしまう。


「ゴホッ……ゴホゴホ!」


胸を押さえながらヴァネッサは前屈みになる。

(この胸が苦しい感覚をヴァネッサになってまで味わうなんて!)

息苦しさに何度も咳き込んでいると、大きな手のひらがヴァネッサの背を摩る。

(……懐かしいわ。咳き込んでいると、よくお父さんがそうしてくれたっけ)