従業員たちが止めるように叫んでも、彼女たちは罵ることを止めようとしない。
髪を掴まれたまま揺さぶられているため、ヴァネッサは答えることすらできない。
「──おやめください!」
先ほど紅茶を持ちに行った女性はヴァネッサの置かれている状況を見て声を上げる。
持っていたカップがガチャンと大きな音を立てて割れてしまう。
そのせいでティンナール伯爵の「やめろ、エディット!」という声はかき消されてしまう。
こちらに駆け寄ってきた女性はエディットの腕を掴んで「離してくださいませ!」と、大声を上げた。
「無礼者、エディットから手を離しなさいっ」
「ちょっと! わたくしを誰だと思っているの!? ティンナール伯爵家のエディット・ティンナールなのよ!」
エディットがそう言った時だった。
ヴァネッサの後ろからバタンと扉が乱暴に開く音。
コツコツと響く足音がどんどんとこちらに向かってくる。
複数のヴァネッサを呼ぶ声が聞こえたが誰の声かわからない。
「──ヴァネッサッ!」
ギルベルトがヴァネッサの名前を呼んだのと同時に、バチンと痛々しい音が聞こえた。
そして視界が開けて髪を引かれる痛みがなくなった。
ヴァネッサのぼやけた視界に映るギルベルトの姿。
彼は自分の体でヴァネッサを守るように抱き寄せた後に吠えるように叫ぶ。
「お前たちは……俺の妻に何をしている!?」



