問.伊差くんがわたしを好きであることを証明せよ。



わたしが頭のなかでそんな勝手な講評を繰り広げていることなどつゆ知らず、伊差くんは我に返ったようにはっとした表情を見せると、慌てて目線を逸らしたのだった。


どうやら彼は、なにか忘れ物をしてしまったらしかった。

自分の机のなかをガサガサ漁っている背中を眺めながら、意外とおっちょこちょいなところあるんだな、と、今度は性格についての講評を始めてしまう。


伊差くんは、お目当てのなにかを引き出しから引っぱり上げると、こちらを一瞬たりともふり向きもせず、慌ただしく、今しがた入ってきたばかりの扉のほうへ歩を進めようとした。


どうして引き留めようと思ったのか、わからない。

でも、どうしても、いまは、そうせずにいられなかった。


「伊差くん、もしよかったら、教えてほしいんだけど」


なにを、と自問する前に、伊差くんのほうにそう訊ねられた。


「数学……いま、解いてるんだけど、きょうの授業の分、ぜんぜんわからなくて」


数学、と聞いた彼の瞳に小さな輝きが宿るのがわかった。

それはさながら無邪気な少年が見せるような表情で、なぜ彼がここまで数の世界の虜になるに至ったのか、知りたいような気持ちになってしまった。


少しためらいながら、伊差くんがこちらに足を動かし始める。

どこに座ろうか、たぶんかなり迷って、彼は結局わたしの座っている前の席の椅子に腰かけた。