この問題がかなりの難易度であることにはいくつかの理由があった。
まずひとつめに、先述した通り、伊差くんとわたしにはなんの接点もないからである。
同じクラスになってから数か月のあいだ、言葉を交わしたことはおろか、目が合ったことも、彼がわたしに視線を向け始めてからの、あの授業中の事故のような一度きりだけだ。
一目惚れは、わたし自身したことがないので、あまり信じていない。
そもそもわたしは、自分で言うのもけっこう切ないけれど、一目惚れしてもらえるほどの容姿はしていないはずである。
まあ、伊差くんの好みがソレだと言われれば、それを非難する権利はこちらにないのだけれど。
ふたつめに、これは伊差優和という男子の、ほかにはない特性に起因する。
彼は、よく言えば数学の天才、悪く言えば数学オタクであった。
数学では満点以外を取ったところを見たことがないけれど、数学以外の教科はからきしダメみたいなので、後者の“オタク”と呼ぶほうがしっくりきそうではある。
伊差くんは休み時間にも自分の机にかじりつき、ひたすら数字と向きあっているような男子だ。
友人らしい友人はいなさそうだし、はつらつと言葉を発しているところも見たことがない。
色白で、ひょろっとしているから、スポーツもしたことがないのだろう。
好きな女の子も……いない、と言われたほうが、納得できる。



