なぜ伊差くんがやたらとわたしに視線を向けてくるのか、眼差しの主が判明してからも、それはいっこうに謎のままだった。
やはり生粋の日本人のわたしである、真っ先に浮かんだ考えといえば、彼に対してなにか失礼なことをしてしまったのではないか、という懸念だった。
話したことは一度もない、けれど一日の大半を同じ教室で過ごしているわけで、知らず知らずのうちになにか恨みでも買ってしまったのではないか。
それでも、どんなに記憶を遡ろうと、思い当たるふしがひとつもない。
そもそも、たまに感じる視線のなかに悪意に似たものは混ざっていない気がするので、“伊差くんに嫌われている説”は証明不可能と判断せざるを得ないのであった。
それならば、と思い直したのは、それから数日後のことである。
――もしや、わたし、伊差くんに好意を持たれているのでは?
ばかばかしいと思いつつ、こういった経緯で、わたしのなかにひとつの設問が誕生したのである。



