君の心は奪えない



ワイングラスに、炭酸水を注いでもらい、ホールの中を見渡した。

……いた。
今日のターゲット、馬場優一郎。


着ているのはうっすらと縦ストライプが入っているタキシード。
メガネをかけていて、髪の毛はオールバックで固められている。


宝石商、個人でも宝石を所有しているというだけあるようで、身につけている腕時計やブローチには宝石があしらわれている。



「大きな荷物は、フロントにあずけてるみたいだから……」


そっちは、あとで一瞬すり替えて回収させていただこう。
まずは、彼が今まで右手に持って操作している……スマートフォン。


あれを拝借して、スマホ用のデータ抜き取り装置を端末に繋げて……。


これからの段取りを、壁際に立って考えている時だった。



「疲れた……」


小さく呟きながら、男の子があたしと同じく壁際のすみに歩いてきた。

……まずい、和泉だ。