黒いスーツを着て、ネクタイを締めている彼は、間違いない。
「和泉がいるの……⁉︎」
「社長子息なら、もしかしたらいるかもと思っていたけど……まさか本当にいたとは」
「どうしよ⁉︎」
姿は完全に取り繕うことができて、声だって変えることができるシールがある。
鎖骨の真ん中に貼ることで、自分の声を誤魔化すことができるものだ。
もちろん、シールもぱっと見では絶対に分からないよう、あたしの肌に馴染ませた特殊なもの。
でも……。
長時間の潜入となったとき、ふとした瞬間に見せてしまう可能性がある、自分の癖。
それを、普段身近にいる人……しかも年単位で知り合いの和泉に見られた時。
バレない確率は100%ではない。
「春義君……あたしの代わりに行かない……?」
「監視カメラ映像の偽造や防犯システムの解除、この規模の会場だとひとりでするの大変だと思うよ?俺が潜入するとなると、羽月にほとんどしてもらうことになるけど……」


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