ゴウッ!!
炎が爆ぜ、剣がぶつかり合う音が京都の夜に響き渡る。
沖田の木刀が男の肩を掠める。だが、男は苦痛をものともせず、燃え上がる刀を振るった。
「――っ!」
沖田は瞬時に身を引くが、熱波が頬を焼く。
(この炎……ただの火じゃない。)
沖田は直感的に理解した。
(妖の力……それも、僕と同じ"狐"の力……。)
「どうした、沖田総司。」
男は愉快そうに笑いながら言った。
「お前も気づいてるんだろ?俺が何者かってことをよ。」
沖田は、静かに息を整える。
「……あなたは、"大狐"の力を継いだ者ですね?」
「ご名答。」
男は炎を纏う刀を構え直す。
「俺は"焔(ほむら)の狐"――名を**焔牙(えんが)**という。」
「焔牙……。」
沖田は相手の名前を反芻する。
「ってことは、お前が"大狐"の眷属ってわけか?」
土方が低い声で問いかける。
「眷属なんてつまんねぇもんじゃねぇよ。」
焔牙はニヤリと笑った。
「俺は大狐の意志を継ぐ者。そして、お前――沖田総司は"その器"となるはずだった。」
「……器?」
沖田は眉をひそめる。
「お前は大狐の呪いを受けながらも生き延びた。普通の人間なら塵も残らねぇってのによ。」
焔牙の炎がさらに燃え上がる。
「つまり、お前は"特別"なんだよ――俺と同じくな!」
焔牙が踏み込んだ。
ズバァッ!!
炎の刃が空を裂き、沖田へと迫る。
「――っ!」
沖田は身を低くし、ギリギリで避ける。だが、熱風が髪を焦がし、肌を焼く。
「くっ……!」
「チッ、避けやがるか。」
焔牙は忌々しげに舌打ちする。
「だがな、沖田総司。お前が生き延びたのは"運命"だ。」
焔牙は刀を振り上げた。
「お前は"妖狐"として生きるべき存在――なのに、人の側にいるなんざ、笑っちまうぜ!」
焔牙の刀が再び振り下ろされる。
沖田は歯を食いしばった。
(僕が……妖狐……。)
「……だからどうしたって言うんです?」
沖田は木刀を構え直した。
焔牙が目を細める。
「へぇ?」
「僕は新選組の剣士です。」
沖田の瞳が鋭く光る。
「"人"であろうが、"妖"であろうが――僕は"僕"です。」
焔牙がニヤリと笑った。
「面白ぇじゃねぇか……!」
ゴウッ!!
炎がさらに燃え上がる。
「なら、"剣"で語り合おうぜ――妖狐の剣士、沖田総司!」
二人の剣が交差し、戦いの幕は再び切って落とされた。
――夜の京都。
紅蓮の戦場が、静かに燃え広がっていく。
ガキィィン!!
夜の京都に、甲高い剣戟の音が響き渡る。
沖田の木刀と焔牙の燃え盛る刀が激突し、火花が散った。
「――くっ!」
沖田は一歩引きながら、熱を帯びた刀圧を受け止める。焔牙の剣はまるで灼熱の獣が牙を剥くかのような猛威を放っていた。
「どうした、沖田総司!お前の剣はそんなもんか?!」
焔牙が嘲笑うように叫ぶ。
「……っ、」
沖田は歯を食いしばった。
(違う。僕の剣は……こんなものじゃない。)
焔牙が再び踏み込む。
「燃え尽きろォ!!」
ゴウッ!!
刀から放たれた炎が竜のようにうねり、沖田を飲み込もうとした。
「総司ッ!!」
土方が叫ぶ。
だが――
シュバッ!!
沖田は地面を蹴り、炎を紙一重で回避した。
「まだまだ!」
焔牙の第二撃が迫る。
(今だ――!)
沖田は地面を蹴り、焔牙の懐へ飛び込んだ。
「なっ――!」
焔牙が驚く間もなく、沖田の木刀が横薙ぎに振るわれる。
バギィッ!!
焔牙の脇腹に直撃し、炎の勢いが一瞬弱まった。
「がっ……!」
焔牙がよろめく。
沖田はさらに間合いを詰める。
「僕は……!」
木刀を逆手に握り直し、突きを放つ。
「"新選組一番隊組長"――沖田総司です!!」
ズドンッ!!
木刀が焔牙の胸元を打ち抜いた。
「ぐっ……!!」
焔牙が吹き飛び、地面を転がる。
沖田は荒い息をつきながら、静かに木刀を下ろした。
焔牙は地面に手をつきながら、ニヤリと笑った。
「……ははっ。さすがだな……沖田総司。」
焔牙の炎が弱まり、周囲の温度が徐々に下がっていく。
「どうやら、俺の負けみてぇだ……。」
焔牙は苦笑いしながら立ち上がると、その体が徐々に炎と共に溶けるように消えていった。
「また……いつか、どこかでな……。」
最後にそう言い残し、焔牙は完全に消滅した。
沖田はしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがて静かに息を吐いた。
(これで……終わった、のかな……?)
「総司!!」
駆け寄ってきたのは土方だった。
「無事か……!? てめぇ、無茶しやがって……!」
その言葉に、沖田はふわりと微笑む。
「はい、なんとか……。」
「バカ野郎が……。」
土方は乱暴に沖田の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「お前がいなくなったら、新選組がどうなると思ってんだ……。」
その声が、ほんの少し震えていたことに、沖田は気づいた。
「すみません……。」
沖田は小さく呟く。
「でも、僕は……これからも"新選組の剣士"として、生きていきます。」
土方は一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐに苦笑した。
「フン……当然だ。」
近藤も駆け寄ってきて、沖田の肩をポンと叩いた。
「お前が帰ってきてくれて、本当に良かった。」
沖田はほわりと笑った。
「はい。ただいま戻りました。」
夜の京都に、静かな風が吹く。
戦いは終わった。だが、これは始まりでもあった。
沖田総司――妖狐の剣士として、新選組としての戦いは、まだこれからも続いていくのだから。


