「……いきます。」
沖田の声が静かに響いた瞬間、彼女の姿がかき消えた。
「ッ!?」
紅い瞳の剣士が驚く間もなく、沖田の剣閃が彼の懐を切り裂く。
――いや、切り裂くはずだった。
「へぇ……速ぇな。」
男は薄く笑いながら、沖田の剣を最小限の動きで躱すと、すかさず反撃に出る。
「だったら、これはどうだ!」
紅の剣が音を立てて振り下ろされる。
沖田はそれを読んでいたかのように、身体を反らして回避するが――
「……ッ!」
一筋の鮮血が宙を舞った。
「総司!」
土方の叫びが響く。
沖田の肩口に、深い切り傷が刻まれていた。
「へぇ……」
男は嬉しそうに目を細める。
「やっぱりお前、普通の人間じゃねぇな。」
沖田は、痛みを感じる前に気づいた。
――彼は試している。
「……あなた、もしかして。」
「気づいたか?」
男はにやりと笑う。
「俺も、お前と同じさ。」
彼が握る剣が、妖しく光を帯びる。
「妖の力を持った剣士同士……楽しくやろうぜ?」
沖田は、小さく息を吐いた。
「……そうですか。」
剣を構え直す。
「なら、遠慮しません。」
次の瞬間――
二人の剣が、夜の京都に火花を散らした。
紅き剣戟の幕は、まだ開いたばかりだった。
「――はぁっ!」
沖田の木刀が鋭い軌道を描き、男の肩を狙う。
しかし――
「甘ぇな。」
男は、わずかに身をずらしながら刀を翻し、沖田の攻撃を受け流した。
「ッ……!」
受け流された勢いのまま沖田は後方へと飛び、距離を取る。
男の剣は尋常ではなかった。剣の軌道が異様に鋭く、まるで血に飢えた獣のように動いている。
(この人……ただの剣士じゃない……。)
沖田は、自身の中に眠る"妖の力"がざわめくのを感じた。
――使うべきか。
しかし、それはすなわち、"人ならざる者"としての一歩を踏み出すことを意味する。
「総司……!」
土方の叫びが背後から届く。
「……土方さん。」
沖田は、一瞬だけ振り返った。
土方の目には、何かを訴えるような色が宿っていた。
「テメェの好きにしろ……だが、絶対に死ぬんじゃねぇぞ!」
それは、土方なりの"覚悟"だった。
沖田は、静かに目を閉じる。
そして――
「……では、お言葉に甘えます。」
目を開いた瞬間、沖田の瞳が妖しく紅く輝いた。
「お……?」
男が、目を細める。
「いいじゃねぇか……それだよ、それ!」
沖田の気配が一変する。
ふわり、と風が巻き上がる。
沖田の足元から、淡い妖火のような光が立ち昇る。
「――参ります。」
その瞬間、沖田の姿がかき消えた。
「っ……!?」
男の背後に、一陣の風が吹き抜ける。
(――速い!!)
男が振り返るより早く、沖田の木刀が彼の肩を打ち抜いた。
「ぐっ……!」
「まだまだ。」
沖田は、畳み掛けるように次の一撃を繰り出す。
「おらぁっ!」
男もすぐに応戦し、剣を振るう。
剣と剣が激しくぶつかり合い、京都の夜に火花が散る。
だが、沖田の動きは止まらない。
(このまま押し切る――!)
そう思った瞬間だった。
ゴウッ!
「――っ!」
突如、男の刀が炎を纏った。
「ははっ、やっぱり俺たちは似た者同士だな。」
男の目が、妖しく光る。
「俺も……遠慮はしねぇぞ?」
紅き剣士たちの戦いは、さらに熾烈さを増していく――。


