明日もきっと、晴れるはず

沖田総司が妖狐となったことで、新選組の内部には静かな緊張が広がっていた。

表向きは今までと変わらない日常が続いている。沖田も、これまで通り隊士たちと稽古をし、町の巡察に出ていた。

だが、心の奥では誰もが気づいていた。

――沖田総司は、もう人間ではない。

「……おい、沖田の兄さんの様子、どう思う?」

屯所の片隅で、小声で話す二人の隊士。

「正直、あれはもう人じゃねぇ……戦い方が違いすぎる。」

「ああ……あの速さ、あの勘の鋭さ……まるで人間じゃねぇ。」

「それに……最近、時々赤い目をしてるって噂だ。」

「……っ!」

「まさか、本当に……妖になっちまったのか?」

隊士たちの間に広がる不安と疑念。それは、沖田自身も感じ取っていた。

***

ある夜――。

沖田は、ひとりで道場に立っていた。

「……はぁっ!」

木刀を振る。

音を置き去りにするほどの速さ。

「……やっぱり、速くなってる。」

手の感覚が違う。力の入り方が違う。

「……これが、妖の力……。」

人間の時よりも、強くなっている。

けれど、それは"恐怖"でもあった。

(このまま、人間の感覚を失ってしまったら……?)

(本当に、僕はもう、人間じゃないのかもしれない……。)

その時だった。

「夜にひとりで素振りとは、随分熱心だな。」

ふと、背後から静かな声が響いた。

振り向くと、斎藤一が立っていた。

「……斎藤さん。」

「最近、あまり寝てないな。」

「……ええ、まあ。」

斎藤は道場に入り、沖田の前に立った。

「……お前、怖いか?」

その問いに、沖田は目を見開いた。

「……え?」

「自分が、人ではなくなることが。」

「…………。」

沖田はしばらく沈黙した。

そして、小さく微笑んだ。

「……分かりません。でも、もし僕が"そう"なってしまったら……」

静かに木刀を握る。

「……その時は、どうか……僕を斬ってください。」

斎藤は、じっと沖田を見つめていた。

やがて、ゆっくりと頷く。

「……分かった。」

それ以上、何も言わなかった。

ただ、剣を抜き、構える。

「試してみるか?」

沖田もまた、微笑みながら木刀を構えた。

「ええ。」

その瞬間――空気が裂けるような音とともに、二人の刃が交錯した。

***

翌朝。

「沖田さん! 出動です!」

急ぎ駆け込んできた隊士の声に、屯所がざわめく。

「どうした?」

「四条河原町で、"妖"が現れました!」

その言葉に、土方が険しい表情をする。

「何……?」

「目撃者によると、"赤い目をした剣士"だそうです……!」

「赤い目……?」

沖田は、僅かに息をのんだ。

――それは、自分と同じ特徴だった。

土方は、じっと沖田を見つめる。

「……行くぞ。」

「はい。」

新選組の剣士たちは、妖の気配が漂う四条河原町へと向かっていった。

そこで待っていたのは――人ならざる者の戦いの始まりだった。