明日もきっと、晴れるはず


人間に戻る方法
沖田は、自分の手をじっと見つめていた。

震える指先。妖としての力が暴走し、制御できなくなる恐怖。

(僕は……本当に人間に戻れるのかな。)

思えば、いつからか “妖” としての力に抗うことを諦めかけていた。

戦えば戦うほど、剣を振るうたびに “妖” の力が強くなる。

人間でいたいのに―― 自分の本質がそれを許さない。

(でも、僕は……新選組にいたいんだ。)

新選組で、人間として剣を振るいたい。

妖ではなく 「人として」 剣士でいたい。

そのために何をすべきか――考えた。

妖の力を封じる方法
(……何か方法があるはずだ。)

新選組は、ただの剣士集団ではない。 妖を討つ「払い屋」でもある。

つまり、妖を封じる技術や知識があってもおかしくはない。

(だったら、僕の “妖” も封じられるんじゃないか……?)

沖田は、意を決して立ち上がった。

向かう先は、一人の男のもと。

――斎藤一。

新選組三番隊組長。寡黙で冷徹な剣士。

だが、彼は 「妖と人間の狭間にいる者」 について、何かを知っているはずだった。

(斎藤さんなら……きっと何か知ってる。)

夜明けの空を背に、沖田は屯所の奥へと足を進めた。

人間に戻るために――。
沖田は屯所の静寂を破るように、足音を響かせながら進んだ。

夜の京都の空気が冷たく、沖田の心を一層ひやりとさせる。

(僕は――僕は本当に人間に戻れるのか。)

その問いが頭の中でぐるぐると回り、答えの見えない迷路に迷い込んだような感覚があった。

だが、今は立ち止まっている暇はなかった。

斎藤一。

彼の冷徹な目が、沖田には頼りに思える。

新選組の中でも、最も妖に関する知識を持つ男。それに、斎藤は沖田が妖狐であることを察している可能性が高い。

屯所の廊下を歩き、沖田はその姿を探し出した。

やがて、静かに座っている斎藤の姿を見つけた。

「斎藤さん。」

沖田が声をかけると、斎藤は顔を上げ、少しだけ眉をひそめた。

「沖田か。どうした。」

その冷静な声に、沖田は一瞬だけためらったが、心を決めて口を開いた。

「僕、……人間に戻りたい。」

斎藤の目が鋭く瞬いた。

「人間に戻りたい?」

「はい。」

沖田はゆっくりと続けた。

「妖の力が暴走して、僕はどうしていいかわからない。人間として生きたいんです。妖の力を制御できる方法があれば、教えて欲しい。」

斎藤はしばらく沈黙した後、静かに言った。

「お前が妖として生きるか、人間として生きるか……その選択は、お前自身が決めることだ。」

沖田は斎藤の言葉に少し驚いた。

だが、すぐに彼の目を見つめ返す。

「でも……この力をどうにかしないと、誰かを傷つけてしまう。」

斎藤は軽くため息をつき、立ち上がった。

「わかった。お前の覚悟は見届けた。」

そして、斎藤は一歩前に進み、沖田の目をじっと見つめた。

「だが、その覚悟を持つというのは――お前が本当に人間として生きることを選び、全てを捨てる覚悟を持つことだ。」

その言葉に、沖田は胸の奥で何かが重くなるのを感じた。

「覚悟を持って、今度は力を封じるための儀式を行う。」

「儀式?」

「妖の力を封じるには、ただ力を押さえつけるだけでは足りない。」

斎藤は沖田に向かって無言で手を差し出し、沖田はその手を取る。

「お前は、もう妖の力に依存することなく生きる覚悟を決めたという証だ。だが、それを果たすためには、まずお前自身の心の中の妖を許し、受け入れなければならない。」

沖田はその言葉に深く頷いた。

「そして、次に行うのはお前の力を封じる儀式だ。」

「それで……僕は、人間に戻れる?」

「それはお前次第だ。」

沖田はその言葉に静かに頷き、決意を固める。

「覚悟を決めた。僕は、人間として生きる。」

その時、斎藤は沖田の瞳にわずかな光を見つけた。

「ならば、儀式を始める。」

儀式の始まり
斎藤は、沖田を静かな場所へと導く。

それは、屯所の奥深くにある、誰も訪れることのない部屋だった。

薄暗い部屋の中央に、神聖な模様が刻まれた祭壇があり、その周りには特別な道具が並んでいた。

「ここで――お前の力を封じる儀式を行う。」

沖田はその場に立ち、深呼吸をした。

目の前には、斎藤が持ってきた古い巻物と、いくつかの道具が置かれていた。

「この儀式には、妖の本能に逆らう心が必要だ。お前が本当に人間として生きる覚悟を持っているか、試されることになる。」

沖田はしっかりと足を踏みしめ、覚悟を決めた。
儀式が始まる直前、沖田の周囲には新選組の幹部たちが集まっていた。

**土方歳三、近藤勇、斎藤一、原田左之助、そして、**すでに沖田が妖であることに気づいていた幹部たちが、静かな緊張感の中に立っていた。

土方は、沖田の決意を知ってか知らずか、冷静な目で儀式を見守っていた。だが、その表情にはどこか沈んだ影が宿っていた。彼の心の中で沖田が妖であることが受け入れられたかどうか、正直なところはわからなかった。

近藤は穏やかな顔で、沖田に視線を送っている。その目には、いつもの優しさと、少しの哀しみが浮かんでいた。彼は沖田に何があっても味方でありたいと思っているが、それでも沖田が人間に戻ることを望んでいるのは間違いない。

原田は少し距離をとって、じっとその儀式を見つめていた。彼の表情には、厳しくも優しい目があったが、内心では沖田の運命にどう向き合うべきか、迷っているようにも見えた。沖田の暴走を見たときの恐怖もあり、少なからず心の中で葛藤している。

斎藤一は沖田の隣で儀式を進めており、その冷静さで全てを包み込んでいた。沖田が妖であることに対して、斎藤の中にはもはや驚きもなく、ただその結果がどうなるかを見守っているようだった。

その中で、土方が口を開いた。

「沖田、お前が選んだ道を、俺たちは見守る。それがどんなに辛いことであっても――だが、覚悟は決めたのか?」

沖田は一瞬、土方の顔を見つめ、そして静かに頷いた。

「はい。覚悟は決めました。僕は人間として、ちゃんと生きていきます。」

土方はその言葉を、何も言わずに黙って聞いた。ただ、目の前にいる沖田が妖であることに戸惑い続けながらも、その決意を尊重する気持ちを強く持っていた。

近藤も優しく沖田に微笑みかけ、少し歩み寄った。

「お前がどう選んでも、俺たちはずっとお前の味方だ。」

その言葉に、沖田は少しだけ安堵の表情を浮かべた。しかし、その心はまだ不安でいっぱいだった。

「ありがとう……でも、僕にはまだ分からないことが多すぎて。」

原田が口を開く。

「分からんでいい。それを知ろうとすることが大事だ。」

沖田はその言葉に少し驚きながらも、ふっと笑顔を見せる。

「……はい。」

斎藤は儀式を続けながら、ふと立ち止まった。

「いいか、沖田。人間に戻るには、妖としての力を完全に封じなければならない。それを忘れないで。」

沖田は頷き、心の中で決意を新たにした。

「分かっています。」

その瞬間、斎藤が再び巻物を広げ、呪文のような言葉を呟き始めた。

沖田の体が微かに震え、妖の力が反応するのを感じる。

「妖の力が封じられるまで、動くな。」

斎藤の声に従い、沖田はじっとその場に立ち続けた。

その周りの幹部たちも、しっかりと沖田の決意を見守っていた。土方は腕を組んで少し離れた位置で、その光景をじっと見つめている。近藤も少し距離を取って立っているが、沖田の方に視線を送っていた。

原田と斎藤は、いずれも沖田の行く末を気にしているようだったが、その心の中にあるのは、沖田が選んだ道を全力で支えようという強い意思だった。

儀式が進んでいく中で、沖田の体から妖の力が徐々に抜けていく感覚があった。まるで心の中の闇が少しずつ晴れていくような、そんな不思議な感覚に包まれていた。

しかし、封じられたその力が沖田の体に重くのしかかる感覚もあった。

「……これで、僕は人間に戻れるんですね。」

沖田は呟きながら、目を閉じた。

斎藤の冷徹な目が、静かに沖田の変化を見守っていた。