明日もきっと、晴れるはず

「沖田さん……貴方は……」

「……どういうこと……?生きてるの、かな。これ……」

妖狐となっていた。そして、

「……あ、一応、人間の姿になれるんですね……土方さん達、びっくりしちゃいます……でも、ちょーっと眠いので屯所まで連れ帰ってくれませんか?」

そうして、屯所にて。

「……あの…総司は……」

「……驚かないで聞いてください。沖田さんは、確かに大狐の生贄として呪に苦しんでいました。そしたら、奇跡が起きて、沖田さんは、生きてるんです。でも、妖狐になってしまって……」

その言葉に、場の空気が凍りついた。

「……総司が、生きてる?」

誰もが信じられないという顔をしていた。

「おい、どういうことだ。総司は大狐の生贄になったんだぞ?それなのに……」

土方が低い声で問う。幕府の命令に背くことはできず、泣く泣く総司を送り出した。しかし、今ここにあるのは「総司が生きている」という信じられない言葉。

「ええ……ですが、問題が一つあるんです。」

「問題?」

「沖田さんは……人ではなくなりました。」

「……っ!」

土方の拳が震える。

「妖狐になってしまったんです。」

その言葉に、新選組の面々は沈黙した。

「嘘だろ……」

「妖狐……だと……?」

新選組は「払い屋」として妖を討つ役目を持っている。
その新選組の剣士であった沖田総司が、妖になった――それは、すなわち「敵」となることを意味していた。

「冗談じゃねぇ……」

土方が呟く。

「総司が、妖?ふざけるな……そんなの、認められるわけがねぇだろ……!」

彼の声は怒りに震えていたが、その瞳の奥には別の感情が渦巻いていた。

すると、奥の部屋から声がした。

「……ん……ぁ……」

その声に、全員が息をのむ。

「……総司……?」

布団に横たわる沖田が、ゆっくりと目を開いた。

「……あれ?僕、生きてる……?」

彼――いや、彼女の瞳は、今までと違っていた。瞳孔が猫のように縦に細くなり、耳は僅かに尖っている。

何より、長い白銀の尻尾が揺れていた。

「あ……」

自分の尻尾に気づいた沖田は、目を瞬かせた。

「これ、僕の……?」

恐る恐る尻尾を触る。ふわふわしていて、柔らかい。

その光景を見た新選組の隊士たちは、誰も言葉を発することができなかった。

「……総司。」

土方の低い声が響く。

「お前……自分が何になったか、分かってるのか?」

「えっと……妖狐?」

沖田は少し困ったように笑った。

「そ……うか……」

土方は拳を握りしめると、次の瞬間、抜刀した。

「土方さん!?」

近藤が慌てて声を上げるが、土方は構わず沖田に刃を向ける。

「総司、お前はもう、人間じゃねぇ……新選組として、生かしておくわけにはいかねぇ。」

静かに、しかし確固たる決意を持った声だった。

沖田は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに笑った。

「……ですよね。」

そう言って、ゆっくりと起き上がる。

「でも……僕、土方さんと戦いたくないなぁ。」

「……っ!」

その言葉に、土方は一瞬動きを止めた。

「僕、人間じゃなくなっちゃいましたけど……新選組の剣士でいたいって思っちゃダメですか?」

沖田の言葉に、隊士たちは動揺する。

「冗談言うな……!お前は妖になったんだぞ!?払い屋である俺たちが、お前を生かしておく理由はない!」

「……そう、ですよね。」

沖田は、寂しげに笑った。

「……なら、僕は……どうすればよかったんですか?」

そう呟いた沖田の表情には、悲しみが滲んでいた。

「僕は、京都を守るために生贄になりました。でも、死にませんでした。その代わり、妖になりました。……それって、そんなにいけないことですか?」

誰も、何も言えなかった。

「僕がもし、死んでいたら、皆は悲しんでくれましたか?」

「……っ!」

土方の表情が苦悶に歪む。

「僕、妖になっちゃいましたけど……新選組の皆と、一緒にいたいんです。」

沖田の言葉に、新選組の隊士たちは顔を見合わせた。

「総司……」

「お前……」

「だめ、ですか?」

土方は奥歯を噛みしめた。

そして、刃を――

振り下ろさなかった。

「……チッ……」

土方は剣を鞘に収め、背を向けた。

「……好きにしろ。」

「土方さん……!」

「ただし、一つでも妖としての本性を見せたら、その時は俺がこの手で斬る。」

沖田は、少しだけ微笑んだ。

「……ありがとうございます。」

その日、新選組の中で、新たな「秘密」が生まれた。

彼らの仲間の中に、「妖」がいることを――