その夜、沖田は一人、屯所の裏庭で剣を振るっていた。昼間の一件が頭から離れなかった。土方の言葉、隊士たちの反応――そして、何よりも自分の心の中で鳴り響く問いがあった。
(私は本当に、このままでいいのだろうか。)
剣を振り下ろし、木の枝を切り裂くたびに、心の中で答えを探していた。妖として生きること、それが自分の宿命であると認めつつも、どうしても心の奥底に渦巻く疑念が消えなかった。人と妖、どちらを選ぶべきか。どちらも捨てることはできない。しかし、どちらの道も選べば、今のようには生きられないのではないかという恐れがある。
「総司。」
その声に振り向くと、そこには斎藤一が立っていた。いつもの冷徹な表情を浮かべているが、その目には何か思うところがあるようだ。
「斎藤……。」
沖田は剣を下ろし、少し肩の力を抜いた。斎藤は静かに近づき、何も言わずにその場に立ち尽くした。
「お前は、何を考えている?」
その問いに、沖田は少し間を置いた後、静かに答える。
「人間として、妖として……どちらの道を選ぶべきなのか、ずっと迷っている。」
斎藤はしばらく黙って聞いていたが、やがて口を開いた。
「選ぶ道を迷うのは、仕方ない。しかし、俺はお前がどう選ぼうと構わん。ただし、新選組の一員として、お前がどんな道を選ぶにしても、それを守り抜け。」
沖田は斎藤の言葉に深く頷いた。
「守り抜く、か……。」
沖田は再び剣を構え、空を見上げる。その瞳に浮かんでいたのは、何かしらの覚悟だった。
「守り抜く……。そうだな。そうしないと、あの人たちに申し訳が立たない。」
「……お前がそれで決めるなら、俺はそれを受け入れる。」
斎藤は沖田を一瞥し、再びそのまま背を向ける。
「だが、覚悟が足りないのなら、今すぐその剣を捨てろ。選ぶ覚悟ができてから来い。」
その言葉を残して、斎藤は足音を立てずに去っていった。沖田はしばらくその場に立ち尽くし、静かな夜風に身を任せた。
――覚悟か。
斎藤の言葉が沖田の心に深く響く。その言葉は、まるで自分の心の中に隠れていた本当の答えを引き出してくれるかのようだった。
沖田は深く息を吸い込む。そして、再び剣を振り下ろした。音もなく、木の枝が切り裂かれる。だがその刃の先にあったのは、これまでの迷いではなく、はっきりとした決意だった。
(私は、私であり続ける。)
妖でも人間でも、どちらの道を選んだとしても、今の自分を失うわけにはいかない。新選組の仲間として戦い続けること、それが今の自分にできる唯一のことだと感じた。
その決意を胸に、沖田は剣を収め、静かに歩き出した。夜の闇が包み込む中で、ただ一つ確かなものを胸に――。


