屯所の空気は、張り詰めていた。
沖田総司が“妖”であることが明らかになった今、隊士たちの目にはまだ疑念が残っている。
「……で、副長はどうするんです?」
一番隊の隊士の一人が、土方歳三を見やった。
「隊長は今まで通り、俺たちの指揮を執るんですか?それとも……」
その言葉に、場の空気が凍りつく。
「“隊の規律”に従って処分するのか、ってことか?」
土方は静かに答えた。
沖田の顔に、わずかに影が差す。
(……やっぱり、斬られるのかな。)
覚悟はしていた。
土方歳三は新選組の“鬼”だ。隊の規律を何よりも重んじる男。
たとえ相手が誰であろうと、隊の掟に背く者は容赦しない。
その彼が、自分のような“妖”を許すはずがない。
沖田は静かに目を閉じた。
――しかし。
「総司。」
土方の低い声が響く。
沖田はゆっくり目を開けた。
土方は鋭い目で沖田を見据え、言い放つ。
「――お前は、今まで通り一番隊隊長だ。」
その瞬間、隊士たちがどよめいた。
「副長、それは――」
「文句があるなら言え。」
土方は隊士たちを睨みつける。
「いいか、お前ら。俺たちは何のために剣を取ってる?」
誰も答えられない。
土方は続ける。
「新選組は、“裏切り者”を斬る組織だ。だが総司は、俺たちを裏切ったか?」
「……それは……。」
「こいつは今まで、俺たちのために剣を振るい、戦ってきた。その事実は変わらねぇ。」
「……ですが、副長!」
ある隊士が勇気を振り絞って声を上げる。
「もし、隊長が“妖”として暴走したら……?」
「その時は、俺が斬る。」
土方の即答に、隊士たちは息をのんだ。
沖田も目を見開いた。
土方は冷たい視線を沖田に向ける。
「総司、お前は“妖”だろうがなんだろうが、これまで通り戦え。新選組の剣としてな。」
「……はい。」
沖田は微笑んだ。
隊士たちも、次第に納得したように頷く。
「――話は終わりだ。」
土方がそう言うと、隊士たちはゆっくりとその場を離れていった。
沖田は小さく息をつきながら、土方を見た。
「副長、ありがとうございます。」
「礼なんか言うな。」
土方は眉間にしわを寄せる。
「……だが、忘れるな。お前が少しでも人を裏切るようなことをすれば、俺は迷わずお前を斬る。」
「ええ、それはもちろん。」
沖田はくすりと笑った。
土方はしばらく黙っていたが、ふと目をそらしながらぼそりとつぶやく。
「……お前は、昔からそういう顔をする。」
「え?」
「自分が死ぬ覚悟を決めた時の顔だ。」
沖田は驚いたように目を見開いた。
土方はそれ以上何も言わず、背を向けて歩き出す。
沖田はしばらくその背中を見つめた後、そっとつぶやいた。
「……副長は、本当に鋭いですね。」
夜風が、そっと沖田の頬を撫でた。


