明日もきっと、晴れるはず


屯所の庭に、ざわめきが広がっていた。

「沖田隊長が……?」

「本当なんですか?」

一番隊の隊士たちが集まり、沖田総司を囲むように立っていた。彼らの表情には驚きと困惑、そしてわずかな恐れが混じっている。

先ほどの一件を目撃した者もいれば、噂を聞きつけて駆けつけた者もいる。

「ちょっと待てよ……つまり、隊長は“妖”になったってことか?」

隊士の一人が、慎重な口調で問いかける。

沖田は困ったように微笑みながら、軽く首を傾げた。

「うーん……僕はどう説明すればいいんでしょうね?」

「……冗談じゃないですよ、隊長!」

別の隊士が声を荒げた。

「だって、“妖”って言えば俺たちが討つ側の存在じゃないですか!それなのに、そんなのが俺たちの隊長だなんて――」

「……斬れって言うのか?」

低い声が割って入る。

隊士たちが振り向くと、そこには斎藤一が腕を組んで立っていた。

「確かに、妖は俺たちの敵だ。だが、今ここにいるのは“沖田総司”だ。」

その冷徹な口調に、隊士たちは息を呑む。

「……だけど、いつ“敵”になるか分からねぇじゃねぇか。」

一人の隊士が言い返す。

「隊長が“妖”になっちまったってんなら、もう人間じゃねぇ……なら、俺たちは――」

ズバッ!

「――っ!?」

隊士の頬をかすめるように、一本の木の枝が突き刺さった。

驚いて目を向けると、沖田が何気なく手を伸ばした格好で立っていた。

「……僕を疑うのは構いませんよ?」

沖田の声は穏やかだった。

「でも、今の僕が“敵”だと決めつけて斬ろうとするなら――」

「僕も、容赦しませんよ?」

冗談のような笑顔。しかし、その目は鋭く、獲物を狙う刃のように冷たい。

先ほどまで沖田に疑念を抱いていた隊士たちは、一斉に息をのんだ。

沖田総司は、確かに“化け物”のような強さを持っていた。

だが、それが“恐怖”の対象としてのものではなく、“圧倒的な剣士”としての威圧感だった。

「――隊長が、“今も俺たちの隊長”である限り、俺は従います。」

隊士の一人が、震える声でそう言った。

「俺も……。」

「俺たちは、新選組の一番隊だ!」

次々と隊士たちが頷く。

沖田は一瞬驚いたような表情をしたが、やがて柔らかく微笑んだ。

「皆さん、ありがとうございます。」

その時、少し離れた場所でじっと様子を見ていた土方歳三は、静かに目を細めた。

(……これが、総司の“力”か。)

ただの剣の腕前ではない。

その場にいる者たちを納得させ、従わせる“強さ”と“覚悟”。

それこそが、新選組の沖田総司――そして、“妖”になってもなお、人であろうとする者の意志なのかもしれない。