夜風が屯所の廊下を吹き抜ける。
沖田総司は、ふらふらとした足取りで歩いていた。
山崎烝に斬られかけた直後だというのに、気の休まる暇もない。
「……はぁ、やれやれ。」
結局、山崎には自分が大狐の呪いを受けたことを明かせずじまいだった。
自分でも、どう受け止めればいいのかわからないのだから当然だ。
――妖狐になった僕は、一体何なんだろう?
考えれば考えるほど、答えのない問いに沈んでいく。
ズンッ!
そのとき――強烈な殺気が、背後から襲いかかった。
「……!」
沖田が振り向くよりも速く、鋭い刃がその首元に突きつけられる。
「……よう、総司。」
低く、しかしどこか楽しげな声。
「何してんだよ、こんな夜更けに?」
原田左之助だった。
「えーっと……散歩?」
沖田はとぼけてみせたが、原田の目は笑っていなかった。
「へぇ、余裕じゃねぇか。」
刀の切っ先が、わずかに喉元に押し当てられる。
「大狐の生贄になったって聞いてたが……無事みてぇだな。」
「……そう見える?」
「まぁな。」
「じゃあ、刀を下げてもらえませんか?」
「いや、それはできねぇな。」
原田はにやりと笑った。
「俺が確かめてやるよ。お前が総司のままか、それとも“妖”になっちまったのかをな。」
ヒュン!
原田の刃が閃く。
沖田は飛び退くが、頬に一筋の傷が走った。
「……!」
「お前が“総司”なら、俺は斬らねぇ。でも――」
原田の目が鋭く光る。
「“化け物”なら、容赦はしねぇ。」
ドンッ!
原田が地面を蹴り、猛然と沖田へと斬りかかる。
沖田は素早く小太刀を抜き、寸前でその攻撃を受け止めた。
カンッ!!
火花が散る。
「……左之さん、本気?」
「当たり前だろ?」
「僕を斬れるの?」
「総司なら斬らねぇよ。でも――」
原田は刀を強く押し込みながら言った。
「お前が“妖”になっちまったんなら、話は別だ。」
沖田は、はぁ、と小さく息をついた。
――どうしてこうも、次から次へと斬られそうになるんだろう。
「仕方ないですねぇ……」
沖田はふわりと笑い、小太刀を構え直した。
「それなら、ちょっとだけお相手しましょうか?」


