明日もきっと、晴れるはず

新選組屯所の中庭。

月明かりの下、沖田総司と山崎烝が向かい合う。

「……山崎さん?」

沖田は戸惑いの色を浮かべながら、じりじりと間合いを詰めてくる山崎を見つめた。
普段なら冗談を交わし合うはずの相手が、今は静かな殺気を放っている。

「お前、本当に総司なのか?」

山崎の声には、疑念と警戒が滲んでいた。

「え?」

「お前は狐の妖と戦った後、行方不明になっていた……それが、どういうわけか無傷で戻ってきた。あり得ねぇだろ。」

沖田は小さく息をついた。

――山崎は何も知らない。

己が妖として覚醒したことも、土方や近藤がそれを認めたことも。

「ねぇ、山崎さん。僕は――」

「……黙れ。」

山崎の手が、ゆっくりと刀の柄にかかる。

「俺は新選組の監察だ。内部に紛れ込んだ裏切り者や異端を排除する役目を持っている。」

「……山崎さん?」

「俺が確かめる。お前が本当に総司なのか、それとも――」

シャッ

夜の静寂を裂くように、山崎の刀が抜かれた。

「化け物なのかを!」

シュッ!

鋭い刃が、躊躇なく沖田に振り下ろされる。

沖田はその瞬間、悲しげな瞳をしながら、ただ微笑んだ。

「……やだなぁ、ほんとに斬る気?」

その言葉が終わるよりも速く――

沖田の身体が霞のように揺らぎ、山崎の一撃をかわしていた。

カンッ!

次の瞬間、沖田の小太刀が山崎の刀を正確に受け止める。

「……!」

山崎の目が見開かれる。

――今の動きは、人間の反応速度を超えていた。

「やっぱり、お前……!」

山崎は咄嗟に間合いを取り直し、次の攻撃の構えを取る。

しかし、沖田は動かない。

「ねぇ、山崎さん。」

静かに、しかしはっきりとした声で、沖田が口を開く。

「僕を斬れる?」

山崎の手が、わずかに震えた。

「お前は……妖なんだろう……!?」

「そうだよ。」

沖田は微笑んだまま答えた。

「僕は妖狐になった。でも、それが何?」

「ふざけるな!」

山崎が再び刀を振り上げる。

「新選組は妖を狩る組織だ! たとえ総司でも……いや、だからこそ、俺がやらなきゃいけない!」

「……そっか。」

沖田は静かに目を閉じる。

そして、次の瞬間――

「だったら、僕を斬ってみてよ。」

沖田は無防備に両手を広げた。

「……!」

山崎の動きが止まる。

沖田は、ただ優しく微笑んでいた。

「僕を斬れるなら、斬っていいよ。でも……」

ふわりと夜風が吹き抜ける。

「もし斬れないなら、僕を“沖田総司”だって認めてくれる?」

山崎の手が、震える。

「……ッ」

「僕は変わらないよ。妖になったって、僕は僕だから。」

沈黙が落ちる。

山崎の握る刀が、わずかに揺れた。

ギリッ

彼は奥歯を噛みしめる。

(俺は……どうすればいい……?)

刀を振り下ろせば、沖田は斬れる。
しかし、それは“妖”だからではない。

自分が、沖田総司を“疑った”からだ。

「……くそッ!!」

山崎は叫びながら、刀を地面に突き刺した。

「……今すぐには、認められねぇ……!」

「うん、それでいいよ。」

沖田はにっこりと微笑んだ。

――こうして、沖田総司は“妖の姿”のまま、新選組に留まることになった。

しかし、山崎の心に残る疑念は、まだ完全に消えてはいなかった。

そして、この一件が後にさらなる波乱を生むことになるとは、このとき誰も知らなかった――。