「……総司、本当にお前なのか?」
土方歳三の声には、戸惑いと僅かな怒りが滲んでいた。
沖田は肩を竦めながら、木刀を握り直す。
「何度も言いますけど、僕は僕ですよ。見た目が変わったからって、そんなに驚かなくても……」
彼の背中には、燃えるような狐の尾が揺れ、耳は僅かにぴくりと動いた。
まごうことなき"妖狐"の特徴――新選組が討つべき"妖"の証。
「冗談じゃねぇ……!」
土方は腰の刀を抜き、静かに構えた。
「妖になったお前を、俺たちは放っておくことはできねぇんだよ……!」
「……っ!」
周囲の隊士たちが、次々と刀を抜く。
「……俺たちは"払い屋"だ。妖を討つためにいる。」
土方の瞳には迷いがない。
たとえ、それが誰であろうとも。
「待ってください!」
叫んだのは近藤勇だった。
「総司は……総司だ! 俺たちの仲間だろう?!」
「局長、俺たちの仕事を忘れたわけじゃねぇだろ?」
土方は険しい表情のまま、刀を沖田へと向けた。
「こいつが妖になっちまった時点で、もう"人間"じゃねぇ。なら……俺が斬るしかねぇだろ!」
「……そう、ですか。」
沖田は少し寂しげに微笑んだ。
「仕方ないですね。なら……僕も、"剣士"として応えます。」
――シュッ
沖田の身体がふわりと浮かび、次の瞬間には土方の背後にいた。
「なっ……!」
土方が振り向く間もなく、木刀の切っ先が彼の喉元を突く。
「……僕は、新選組の剣士です。」
沖田の目が細められた。
「仲間を傷つける気はありません。でも、僕を斬るというなら――僕も全力で、抵抗しますよ?」
冷え切った声。
これが"妖"の力を得た剣士の覚悟だった。
「……チッ。」
土方は舌打ちし、刀を収めた。
「お前、本当に厄介な奴になったな。」
「それは、前からですよ。」
沖田はくすりと笑う。
その様子を見て、近藤が大きく息をついた。
「……なら、決まりだな。」
「局長?」
「総司を斬るのは、俺たちの役目じゃない。俺たちの仲間を守ることが、新選組の役目だろう?」
「……はぁ、局長には敵わねぇな。」
土方は苦笑しながら、ゆっくりと沖田を見つめた。
「いいか、総司。お前が妖になっても、俺たちはお前を仲間だと認める……だから、その力、ちゃんと制御しろ。」
「……はい!」
沖田は力強く頷いた。
――これが、新たな"沖田総司"の戦いの始まりだった。


