「シン~、私の部屋、行こうよ~」

甘ったるい声の持ち主はユキ。
彼女もシンと同じく今年の入寮生で18歳だ。
ツヤツヤの黒髪をボブカットにし、くりくりとした瞳が愛らしい。
小柄で華奢で、童顔も手伝い、とても18歳には見えない。
ユキは一方的にシンを気に入り、どんなに邪険に扱われようとも、今日のようにめげずに付きまとっているのである。

テラスにはあっけなく見捨てられ、カイには無視され、居所のなくなった。

「くそっ!マジ離れろ!」

腕に引っ付いて離れないユキにブチギレる。

「いや~ん、怒らないで」

全く動じないユキ。

「おまえら、うるさいぞ。他の利用者の邪魔だから、他でやれ」

帰ろうとしないシンに、カイが忠告した。

「利用者?どこに?誰もいねーけど?」

言い返すシン。
カイの眉がピクンと上がる。怒っているのだ。

「見えないところにいるんだ。出ていけ」

低く迫力のある声だった。

「はぁ!?あんたに命令される謂れはねーんだけど」

「おまえ、生物学を専攻しているな」

「それがなんだよ」

「ここを出入り禁止にされたら、困るんじゃないか」

「けっ!あんたにそんな権限あんのかよ」

「それがあるんだ」

当たり前のように言うカイに、シンは絶句した。

「おまえ、ここにいる大人が、ただ単にそれだけの仕事をしているとでも思っているのか?」

「どーゆー意味だよ・・・」

しかし、その問には答えず、カイはシンから目線を外し、再び自分の仕事に取り掛かった。

「・・・・・・ちっ」

図書館を利用できなくなるのは困る。
カイの言葉に重みを感じ、シンは図書館を出て行った。
当然ながら、引っ付き虫のユキもシンと一緒に。