「あれは、したわけじゃない。されただけだ。それに、あんなのはキスのうちに入らない」

アンセムは必死に弁解しようとした。
あのキスでテラスへの気持ちを疑われるなんて耐えられない。

「アンセムにとっては、キスなんて大したことないのかもしれないけど、私はそうじゃないの。アンセムじゃないとイヤだよ!だから、アンセムも他の人としないで!」

泣きじゃくりながらそう訴えるテラスを見て、アンセムは心が痛んだ。
嫉妬するテラスを見たかったのに、目の前にいるテラスは自分が求めていた姿じゃないと感じた。
混乱して言葉が出ない。
自分が好きなのはテラスだけ、テラスを大切にしたいのに、どうしてうまくいかないのか。

「ごめん…」

アンセムには謝ることしかできない。

「勝手だよ。アンセムは」

そして無言になる2人。
アンセムがテラスを見ると、視線を逸らされてしまった。
自分の気持ちを伝えたくて、アンセムはテラスに手を伸ばす。

「いや!触るな!」

しかし、テラスにピョンと飛び退かれてしまう。

「もうヤダ!こんなのヤダ!」

ルイザから逃げるなと言われた。
だけど、逃げ出したくなる。
今日を区切りに気持ちを切り替えようと思っていたのに。

取り乱すテラスを見て、アンセムは途方にくれた。
言葉では伝えきれないのであれば、抱き締めて、キスをして、そして体で伝えたいのに、テラスはそれを拒否する。

「じゃあ、どうすればいいんだ…」

答えは返ってこない。
テラスは袖で涙をぬぐっていた。

「テラスがわからないよ。こんなにお互い分かり合えていないとは思っていなかった」

テラスの胸がズキンと痛んだ。

「頭を冷やす時間が必要かもしれない」

アンセムは何を言いたいんだろう。

「部屋に戻るよ」

そしてアンセムはテラスに背を向けた。
テラスは何も言えないまま、立ち尽くすしかない。
アンセムは振り返りもせず、寮に戻ってしまった。

「バカ!バカ!!」

アンセムの姿が見えなくなってからテラスは叫んだ。
馬鹿は誰だ?
自分、かもしれない。