そして僕らは愛を手に入れた

もしも、もう一度会えたなら

 𓂋⟢


「はあ……今日も綺惺くんがかわいい」

 友人と喋るふりをしながら目から推しの栄養素を受け取る。クラス内は良くも悪くもいつも通り。退屈で窮屈で、忙しなく空気はあばれていて、いつも何かが発生していて、その中でも綺惺くんだけが輝いていて、わたしの目はいつも綺惺くんを捕まえて離さない。

 そう、わたしの世界は相も変わらず良くも悪くも普遍的で、本日も元気に綺惺くんを中心にまわっている。クラスメイトと戯れる綺惺くんis正義だ。
 
「こころ、げんきだね」
「ありがとう。綺惺くんのおかげだ」
「うん。いつも通りの望月全肯定ムーブ」

 友人の更紗(さらさ)は呆れる。

 あれから一年が経過した、高校2年生の秋。かくしてわたしは無事、何事もなく超健全なルートで生還でき たおかげで、今日も元気に推し活を楽しんでいた。

 特大のニュースがある。なんとなんと、進級して綺惺くんと同じクラスになれたのだ。天使さん、ありがとう……!!と、あの日からなんどもあのひと(人と呼んでいいか分からない)にお礼を伝えている。心の中で。

 ──「にしては、こころって変わってるよね」

 変わってる、と言いながら、更紗は机の上に広げていたポッキーをつまんで、ぽきりとかじった。
 
「ん?そうかな?」

 わたしから見れば、ポッキーの、チョコレートが 掛かっていない持ち手の部分から食べる更紗の方が変わっている。

 わたしもそのひとつをつまむ。もちろん持ち手を掴んで。ぽきぽきと食べ進められていくポッキーを見つめながら、首を傾げる。