そして僕らは愛を手に入れた

 記憶をそのまま受け継ぐことって出来ないのかな……?できるならこの場所も覚えておきたい。まさに今、わたしは千載一遇のチャンスに立たされている。

 ……あ、そうだ。

「ちなみに、生き返ることも可能なの?」
「可能だよ」
「できるんだ!?」

 天国行きのバス停、なんでもありだ。

「その場合も、きみにとって大事なものを差し出せば、その分いい条件で生き返ることも可能」
「寿命かあ」
「どんな事でもいいよ。自慢の歌声をなくした、財産をなくした。ある人は、両親がいないことを、ある人は、好きな食べ物を嫌いになることを望んだ。」

 そんなことでいいんだ!
 過去の誰かの選択肢もかなりゆるい。
 
 おかげでわたしは悩んだ。寿命一択の方がまだ良かった。
 
 五体満足は優先すべきことでしょ?なら何が出せるかな……。ううん……あ、感覚?例えば視力……はできるだけ残したい。綺惺くんのお姿が拝めないのは嫌だ。声も聞きたい。できれば話したい。あとは食べることが好きだから味覚も残したい。であれば、わたしになにが出せる?
 
「あ、そろそろバスの時間だ。バスに乗る前に決めて頂かないと、次の地獄行きのバスに乗っていただくことになるよ」
「えー!?それ早く言って!?」

 生きている時、よく、忙しないと言われていた。あなたは少し落ち着きなさいと。死んでもあわてるなんて、生き返ったらちゃんと落ち着いた毎日を送ろう。うん。

 あとは……そうだなあ。綺惺くんともう少し関わりたい。わたしの推しだもん。活力だもん。

 ……そうだ、綺惺くん。
 
「どうする?」

 天使がわたしに選択肢を委ねる。
 
「決めた。私が差し出すのは──」