弟たちの揶揄は挨拶と捉えて聞かないふりをしていたら、目をハートにさせていたお母さんはいつのまにか涙を溜めていた。お母さんは、わたしが九死に一生の経験をして以降涙脆くなった。でも、彼氏を家に連れてきただけで泣くことはないし、さらに言えば、女避けを目的とした、カモフラージュのために付き合っている、と言えば別の意味で号泣するんじゃないか。
「大きい方が恭、小さい方が慧、慧が中三、恭が中二、日凪が高二、覚えた。」
ちょっとだけ申し訳なく思っていると、マイペースな綺惺くんはわたしの家族をなぞる。勉強前に、無駄な知識で脳の容量を使ってほしくない。
「おぼえなくていいよ、弟のことなんて」
お母さんが用意したコーラを綺惺くんに、カルピスをわたしの前に置き、背の低いテーブルを囲んでノートを取り出す。
「もう覚えた」
綺惺くんはまだ勉強する気がないのか、わたしの部屋を見渡したり、本棚に収納された本のタイトルを眺めたり、ベッドを押さえて耐久性を調べたりしていた。
「綺惺くんは、兄弟いる?」
「一人っ子」
「ぽい!すごく一人っ子」
「どういう意味」
ジト目で睨まれて竦む、小心者は言い訳を考えた。
「あ、えっと、可愛がられて育ってるよねえ〜って」
取り繕った言葉は在り来りで、平凡で、粗末で。
「そう」
綺惺くんがみせたその寂しげな目は、いつもの無気力とも取れた。だけど、なんとなく。わたしの勘はあてにならないけれど、「そう」で終わらせちゃダメだと思った。



