けれども綺惺くんは、わたしの机とくっついてしまったのか、まったく動こうとしない。クラスメイトの視線が痛い。更紗の方を見る。更紗はまるで道端に落ちていたスクープ写真を撮るように、わたしたちにスマホを向けている。いや、撮らないで??
「望月い、先生泣いちゃうぞ〜」
ついに先生は泣き言を言い始めた。これは良くない。先生の威厳のためにも。そして先生の怖いところは、諦めてこのまま進めてしまいそうで恐ろしいのだ。
「綺惺、お前何拗ねてんだよ、ガキか」
助け舟を渡したのは藍良くんだ。
「久々に彼女できて浮かれてんのか」
どっちにしろガキだな、と、心許ない助け舟と、可燃物を追加して藍良くんは前を向いた。おかげで教室内がザワつくのは目に見えていた。藍良、このやろう、覚悟しろよ??と心の中で喧嘩を売った。もちろんその喧嘩は永遠に売れ残りである。なお、この時も綺惺くんは微動だにせず、私をじいっと見上げている。待てをする大型犬みたいだなあって、可愛いと可愛いの最適解を見出した。
「えっ……望月くん、彼女できたの?」
私の斜め前の席の子が、おっかなびっくり綺惺くんに訊ねると「うん」と、とても素直に答えた。やっぱり今日の綺惺くんはおおきくてちょっとおっかないわんこだ。
「いつできたの?」
「昨日」
「それって……もしかして、こころ?」
「そう」
さらさらと返事をする綺惺くんに驚いて「ちょっと!?」と、声を荒らげてしまった。いや、あの、受け答えが忠犬すぎません?



