そして僕らは愛を手に入れた

 たしかに、意識が途切れる前に聞こえたファンファーレは車のクラクションだった気がするし、最後にみたのは綺惺くんではなく、迫り来るトラックだった気がする。

 綺惺くんしか見てなかったから、まあ仕方ないや。わたしのミスだ。ごめんね、お母さん、お父さん。こんどはちゃんと、右左見て横断歩道は渡るようにするからね。

「でも、そっか。天国には行けるんだ。良かったぁ」

 ほっとして胸を撫で下ろすと、天使、のようなひとは笑った。
 
「きみはうつしよに未練ってものがないの?」

 未練、難しい言葉だ。
 
 あるとすれば、お父さんとお母さんを悲しませたことくらいだ。でもまあ、わたしの両親はわたしよりも弟たちの方がすきだから多分大丈夫。いざとなればわたしの他に子どもを作る元気もあるし!

「あ、でも来年、綺惺くんと同じクラスになれたかどうかは気になるなあ」

 脳裏に過った、死んだ理由に直結する煩悩を告げると、天使、のような人は突然吹き出した。

 ……え?わたし、面白いこと言った?

 しゃべる人があまりいないから、笑いのハードルが著しく低いのかもしれない。綺麗な顔の無駄遣いだ。現世にいればアイドルの頂点にでもなれそうな顔なのに。……あ、ごめん盛った。頂点は綺惺くんだ。

「いいね、きみ。気に入った」
「ええ?ありがとうございます?」
「特別に、いますぐ転生するか、生き返らせるかしてあげるよ」
「え!?大盤振る舞いじゃん!」
「そうでもないよ。きみが、差し出すものによってかわる」
「差し出すもの?」


 首を傾げた。なぜなら、差し上げたくても今のわたしは食べ物はおろか、お財布もなく、何もない。

 ……あ、まさか服を渡せってこと?新手の追い剥ぎなのか、天使といういきものは、どうやらむっつりらしい。