そして僕らは愛を手に入れた

𓂋⟢

 ───「あれ?」


 目が覚めた場所は、まっしろだった。


 前も後ろも、上下もわからなければ無音で、無風で、どこからともなく光が溢れる──ともすれば、白い壁同士が反射している世界で、わたしは起き上がった。

 からだも、制服も無傷だ。カバンは持っていない。スマホもない。時間もわからない。方向感覚さえ分からない。

 作り込まれた人工的な場所にしては、開放的な場所。

「ここ……どこ?」

 ありふれた疑問を浮かべたそのとき、視界の端に何かが見えた。

 ──「こんにちは」

 真っ白なワンピースのように長い服と、真っ白なスラックスを履いた女性が男性かもわからない、見知らぬひとがいた。

 ふわふわのショートカットさえホワイトブロンドで、本当にきれいな人だった。たとえば天使がいるならば、こんなすがたをしているのかなって。

 天使のようなひとがにこりと微笑む。
 
「ようこそ、そしてさようなら」

 その人は不穏な言葉を聞かせると、ていねいな仕草で腰を折る。
 
「天国行きはあちらです。バスは先ほど出発したばかりですので、少々お待ちを」
「え……?天国?」
「はい。そうですね、次のバスが来るまであと30分ほどでしょうか」

 作り込まれた芝居にしては、セリフはずいぶんなめらかで自然だ。

「まって、まって……?私、死んじゃったの?」
「なるほど、きみは、自分の死を認識する前に死んじゃったんだね」

 どうやら私という人間は死んでしまったらしい。