私の世界を終わらせた恋

 話しかける前に、まずは幽霊でないことを確認したい──

 そこで5限目の終わりに礼をするとき、半身をひねり、いつも以上に深く腰を曲げた。
 そうして、先生ではなくライムくんに向かってお辞儀した。

 ライムくんは『礼』の号令に合わせて、頭をペコッと下げながら、そろっと後退していった。
 そうしてみんなが顔を上げた頃には、教室後方の出入り口を抜けていた。

 消えたわけではなかった。
 でも、道理で捕まえられなかったわけだ。

 こうなったら、奇襲作戦にでるしかない。
 残る6限目のあとは、そのまま帰りのホームルームへとなだれ込む。
 チャンスは『さようなら』のあいさつをするとき──

「さ……うわっ」

 “さようなら”の“さ”の字しか言わせなかった。
 後退を始める寸前に、ライムくんの腕を掴んでやったのだ。