文化祭の準備期間に入り、クラスの出し物を決める会議が開かれた。

「やっぱり脱出ゲームって流行ってるし、面白くない?」
 沙羅が思い切って提案すると、教室内にざわめきが起きた。

「楽しそう!」「でも作るの難しくない?」「準備時間大丈夫?」

「論理構成を工夫すれば、クラス単位でも十分可能だと思う」
 啓斗が、さらりと肯定した。

 その一言で、沙羅の提案が一気に現実味を帯びる。

――ナイス啓斗!

 企画が通り、役割分担が決まると、沙羅はストーリー演出担当に立候補した。
 啓斗は、もちろん謎解き設計チーム。

 放課後、沙羅と啓斗、そして真帆が図書室の片隅で集まる。

「じゃあ、まずこの謎を見てくれる?」
 啓斗がノートを開き、オセロの盤面のような図を示した。

「この盤面は7進法で書かれた数字を示していて……」

 沙羅は、完全にポカーンとしてしまう。

「ちょ、待って待って。なにそれ。難しすぎるって!」

 隣で見ていた真帆が、軽くため息をついて口を開いた。

「啓斗、それじゃ普通の人は解けないわよ。アトラクションなんだから、楽しくないと」

「でも、解きごたえがないと意味が……」

「謎解きは、特別な前提知識がいらないようにしないと。文化祭はエンタメ優先でしょ?」

「なるほど……」

 啓斗はうなずいて、ノートにメモを取り始めた。

――真帆、さすがの的確さ。

 沙羅はちょっと悔しく思いながらも、負けじと口を挟んだ。

「じゃあ、謎の中にヒントになる小道具とか演出入れたらどう? 怪しい手紙とか、暗号が書かれた小物とかさ」

「それ、面白いかも」
 真帆が乗ってくる。

「じゃあ沙羅ちゃん、そういう小道具のアイデア、いくつか考えてみて」
 啓斗が自然にそう言ってきて、沙羅の胸が少し高鳴った。

――よし、ここから巻き返す!