夏休みが明けた朝。
 久しぶりに制服のスカートを整えながら、沙羅は玄関の鏡で軽くポーズを取った。

 ――よし、今日もイケてる。

 朝から雲ひとつない青空が広がっている。蝉の声がまだ残る中、通学路には制服姿の生徒たちがちらほらと歩いている。

 沙羅は、ヘッドホンを首にかけて玄関を飛び出した。
 しばらくぶりの登校。教室にはどんな空気が流れているだろう。
 あの人――本郷 啓斗の姿を思い浮かべると、ちょっと胸が騒ぐ。

 ――夏休み、あんまり進展なかったけど……ここからよ!

 軽やかな足取りで坂道を上りながら、沙羅は決意を新たに、碧洋学園の門をくぐった。

   ◇◇

 始業式が終わり、教室に戻ると、生徒たちは一斉におしゃべりモードに突入していた。

 「海行った?」「バイト三昧だったわ~」「補習地獄」
 あちこちで、夏の思い出や愚痴が飛び交っている。

 沙羅も鞄を置いて腰を下ろすと、斜め後ろの席をさりげなく振り返った。

 ――あ。

 本郷 啓斗が座っていて、そのすぐ横には松浦 真帆が立っていた。

 真帆は、なにやら穏やかな口調で啓斗に話しかけている。
 啓斗はというと、いつものように表情を崩さず、淡々と返事をしているようだった。

 ――夏休み中も、けっこう話してたのかも?

 沙羅の胸の奥に、ふわっとした焦りが広がる。

 夏は終わった。けど、勝負はこれから。
 この2学期こそ、巻き返してみせる。