8月の2週目が始まった日の午後。

 軽いランチを済ませた沙羅は、リビングのソファに腰をおろし、ミュージックチャンネルで最新の洋楽ヒットチャートをチェックしていた。

 そのとき、テーブルに置いたスマホが震えた。

 見ると、本郷 啓斗からのメッセージが届いていた。

「これから、こないだカラオケ行ったメンバーで、苅田明神の夏祭り行くんだけど、来ない?」

 これからって、急なんですけど。

「行く」

「鳥居の前に集まることになってるから来て」

 沙羅は、すぐに部屋着からデニムのショートパンツに白のオーバーシャツへと着替え、家を飛び出した。

   ◇◇

 苅田明神の鳥居前には、啓斗、田中 壮太、岡田 梨乃、水瀬 可南子の4人が待っていた。

 啓斗は、ブラックジーンズに白のTシャツ、その上から紺のサマージャケットを羽織り、腕まくりしている。

 シンプルだけど、なんか様になってるのが悔しい。

 5人は、屋台で買った飲み物や食べ物を手に、特設ステージでのトークイベントをのぞいたり、グッズ売り場を冷やかしたりして、にぎやかな時間を過ごしていた。

 16時を過ぎたころ、梨乃が「今日は塾があるから」と言って帰ってしまった。

 その後、壮太と可南子はアニメ談義に花を咲かせていた。どうやら、この苅田明神、何かのアニメの聖地らしい。

 そんな中、沙羅と啓斗は、自然と二人きりになる形になった。

「啓斗。この前、医療系の小説読んでたけど、医者に興味あるん?」

「やりがいもあるし、高収入も期待できるだろ」

「ふ~ん。ということは、医学部目指してるんだ。啓斗なら受かるっしょ」

「沙羅ちゃんは?」

「まだ考えてないけど、数学なしで受験できる英文科くらいかなあ」

「英語の発音、めっちゃいいもんな。英文科はいいかも」

――なんか真面目な話になっちゃったけど、まあいいか。

 にぎやかな祭囃子の音と、夕暮れの風に包まれて、沙羅はふと感じた。

 さっきよりも、ほんの少しだけ——

 啓斗との距離が近くなった気がした。

  ◇◇

「おみくじでも引いてく?」

 啓斗の一言に、沙羅は「うん!」と即答した。
 二人で並んで小さなおみくじ箱に手を入れ、くじを引く。

「……末吉か」

 啓斗が無表情で紙を読み上げる。

「沙羅は……大吉! やった!」

 紙を持ち上げてにっこり笑う沙羅。

「恋愛運、書いてある? 大吉ってことはいい感じ?」

「えっと……“大胆に行動すれば報われる”だって!」
――これはもう、神様も背中押してくれてるってことじゃん!

「へぇ、そうなんだ」

 啓斗は素っ気なく返し、紙をたたんでポケットにしまった。