期末試験の時期が近づいてきた。

「啓斗。期末もお願い!」

 沙羅は、振り向いて斜め後ろの席の啓斗に手を合わせる。

「ん~そうだな。期末の範囲で簡単に点が取れそうなのは……」

 啓斗は、中間テストのときと同じように、効率よく点が取れる方法を考えながらノートを取り出した。

「沙羅。期末が近くて、啓斗も忙しいんだから邪魔しちゃだめよ」

 顔を上げると、松浦 真帆がすぐそばに立っていた。
――いつの間に来たのよ。

「それに、啓斗も、安易な方法ばっかり教えて」

 ピシャリとした口調に、沙羅は思わずむっとする。
 そんな二人のやり取りを見ていた隣の田中 壮太が、ニヤリと笑いながら口を挟んだ。

「真帆ちゃん、そんなにムキにならなくても……やきもち?」

「そんなんじゃないわよ!」

 真帆はきっぱりと言い捨て、大股で去っていった。

 その後ろ姿を見送りながら、沙羅は内心で確信する。

――真帆も、啓斗狙ってるな……。

   ◇◇

 期末試験が終わり、成績優秀者のリストが貼り出された。
 廊下の掲示板の前には、恒例のように生徒たちが集まっている。

「……マジかよ、外した!」

 西川 波留が悔しそうに叫ぶ。
 どうやら、また成績順位を賭けていたらしいが、今回は予想を外したようだ。
 
 そんな波留をよそに、沙羅は成績表を見上げる。

一位 松浦 真帆
二位 本郷 啓斗
三位 中田 健吾
……

「……えっ、真帆が一位?」

 沙羅が驚いていると、すぐそばで真帆が静かに微笑んでいた。

「たまには、私が勝つこともあるでしょ?」

 その言葉に、沙羅は何か意図を感じてしまう。

――もしかして、啓斗にいいとこ見せたくて、めっちゃ頑張ったとか?

 そんな沙羅の考えをよそに、啓斗はいつも通りの様子でリストを眺める。

「ふーん、今回は俺二位か」

「啓斗、悔しくないの?」

「ん、なんで? 二位だって全然悪くないだろ? 」

――いや。一位だった人が二位になったら、もっと違う反応しない?

 その様子を見ていた真帆が、小さくため息をつく。

「もうちょっと気してくれても……」

 沙羅も同じ気持ちだった。

――もうちょい悔しがるとかないわけ!?