金曜日の放課後。

「啓斗。明日、ウチと一緒にカラオケ行かん?」

 沙羅は、できるだけ自然なトーンを装いながら聞いた。
 ここで「なんで?」なんて聞かれたらどうしよう、と内心ドキドキしていたが——。

「カラオケ? いいね」

 啓斗はあっさりと了承した。

「ハウンドドッグなら、高校生割引で長く遊べるし」
「OK!」
「じゃあ、1時にハウンドドッグの前で」

 拍子抜けするほど簡単に決まってしまった。
 あまりにスムーズすぎて、かえって不安になる。

   ◇◇

 翌日、カラオケ「ハウンドドッグ」の前で沙羅は待っていた。

――やば、ちょっと緊張する……

 期待と不安が入り混じる中、ようやく啓斗の姿が見えた。
 しかし、その隣には——。

「お待たせ」

 啓斗と、クラスメートの男女三人 -田中壮太、岡田梨乃、水瀬可南子-。

「……」

 言葉を失う沙羅。

「どした? 人数多い方が楽しいだろ?」

 啓斗は、まるで何の疑問も持っていないかのようにニコニコしている。

――いやいや、そうじゃなくて! これはデートのつもりだったんですけど!?

 文句を言うわけにもいかず、とりあえず店内へ。

   ◇◇

――よっしゃー! じゃあ、ウチのターンね!

 沙羅は得意の洋楽ラブバラードを選曲し、啓斗に視線を送り、感情を込めて熱唱。
 これで、啓斗の意識を自分に向ける……!

 そう思ったのに。

「すごいな、発音めっちゃいいじゃん!」

 啓斗の感想は、ただそれだけ。

――いや、そうじゃない! もっと別の感想ない!?

 空振り感がすごい。

   ◇◇

 カラオケが終わり、店を出る。

――もう、ストレートに言うしかない!

「啓斗。沙羅は啓斗が好き!」

 できるだけ真剣な顔で言った。

「うん。俺も沙羅ちゃん大好きだよ~」

 まるで親が子供に言うような軽いノリで返ってきた。

「……え?」

――ん? 思いっきり軽い。これ、絶対誰にでも言ってるやつ。

 むしろ「ごめんなさい」と言われたほうが挽回のしようがある。
 でも、このノリじゃ「挽回」も何もあったもんじゃない。

「……じゃあ、連絡先交換しよ?」

 とりあえず、次の手を考えないといけない。

「いいよ」

 二人はQRコードをスキャンし合い、連絡先を交換。

――でも、このノリだと、啓斗、誰とでも簡単に連絡先交換してるよな。

 沙羅の恋の道は、どうやら前途多難らしい——。