恋のライバルは学年2位の優等生。私のアプローチは空振り中です!

 文化祭前日の夕方。

 教室の窓から差し込む西日が、オレンジ色に床を染めていた。
 装飾も、小道具も、配置も——ひととおりの準備は終わっている。

「……こんなもんか」

 啓斗が、最後に教室全体を見渡しながら小さくつぶやいた。
 机の上には、謎解き用の資料や小道具が整然と並べられている。
 その隣で、真帆がチェックリストに目を落としていた。

「導線も問題なし。ヒントの配置も想定通りね」

 淡々と確認しながらも、その声にはどこか張りつめたものが混じっている。

――ここまで来たら、あとは本番だけ。

 ミスは許されない。
 そんな空気を、真帆は内側に抱えていた。

 一方で、教室の後ろでは——。

「……よし!」

 沙羅が、小道具の入った箱をぱたんと閉じた。
 封蝋の手紙、鍵付きボックス、ビーズのブレスレット。  どれも、自分なりにこだわって作ったものばかりだ。

――ちゃんと、通用するかな。

 ふと、不安がよぎる。

 でも、それ以上に——。

――絶対、成功させたい。

 胸の奥が、じんわりと熱くなる。
「沙羅ちゃん、そのブレスレット、最終ヒントの鍵になるんだよな」

 啓斗が、ふと思い出したように声をかけてきた。

「うん。順番通り読めば、場所が分かるようにしてある」

「いいと思う。ちゃんと“気づける難易度”になってる」

 その言葉に、沙羅の緊張が少しだけほどけた。

「……そっか」

 真帆も、そのやり取りを横目で見ていた。

「……本番、ちゃんと機能するかどうかは別問題だけどね」

 あえて冷静な言い方をする。

 けれど、その視線はほんのわずかに柔らいでいた。

――まあ、悪くはない出来だと思うわ。

 言葉には出さないが、そんな評価がにじむ。
 教室の時計が、静かに時を刻む。
 外では、他のクラスの準備の音がまだかすかに響いていた。

「じゃあ、戸締りして帰るか」

 啓斗がそう言って、電気のスイッチに手を伸ばす。
 ぱちん、と音がして、教室が少しだけ暗くなる。
 夕焼けの光だけが残る空間で、三人は一瞬、立ち止まった。

――明日、ここで全部が動き出す。

 期待と不安が、静かに交差する。
 誰も口には出さなかったが、同じことを思っていた。
 そして三人は、それぞれの想いを胸に、教室を後にした。