「私を敵国のラビリスゲルに和解の証として送っていただけませんか?」
私を澄んだ声が響き、その場にいた人はざわつき始めた。
現国王である父上は驚きと困惑が混ざったような顔でオドオドしながら、聞いた。
「ス、スピレ!いきなり何を言い出すんだ?不満があればなんでも言え。私の権力でなんとかする!」
この言葉を期待していた私は笑顔でこう返す。
「いえ、父上。私には不満などございません。この国から厄介払いの元凶として責任を持っているだけですわ。」
しかし父上は「うーむ」と唸っている。
私はさらに大声で言葉を続ける。
「父上!私のような黒猫はこの国では不運だの、気味悪いだの言われて嫌われていることはご存知でしょう?!もっと言うなら、今朝もダイナに『不運が移るからこっちを見るな』とまで言われたのですよ‼︎」
父上はそれを聞いた後、周りの貴族を見渡した。
「お主らはどう思う?」
すると、賛否両論の意見が上がった。
まず賛成したのはレイナの実母で側妃のパティス様の実家、アルパス公爵家とその取り巻きたちだった。
王女が2人しかいない以上、年齢や正妃から生まれたこともあって私が父の後を継ぎ女王になるのが嫌だということは有名な話だ。
私がこの国からいなくなればレイナが女王として国を収めることになるので、それを狙っているのだろう。
一方で反対したのは、私を昔から可愛がってくれた父方の叔母が嫁いだパルメダン公爵家とその取り巻きたちだった。
彼らは差別や偏見を嫌うのが理由だろう。
その時、「私が可哀想だと思わないのか」と今にも襲いかからんとばかりに、パルメダン家現公爵が怒鳴った。
そのままでは、内乱が起きると察した私は、それにも負けない声ではっきりと言った。
「この場を借りてもう一度言わせていただきます。私を敵国のラビリスゲルに和解の証として送っていただけませんか?」
その場は静寂に包まれ、誰も何も言わなかった。
「それでは皆様、ご機嫌よう」
私はそう言ってリムを連れてその場を後にした。