ワケアリ無気力くんが甘いです




──え……?


「勿論、呼んでいいなら……だけど」



さっき私が名前の話をしたから……


ああ──優しいな、先崎くんは。


……胸が熱い。

心臓が速いせいかな。


学校では黒羽さんとも夜子とも呼ばれることは仕方ないと受け入れていたけど、本当は名前が嫌いだから『ヤコ』としか呼んで欲しくないって思っていたのに……


私──


先崎くんには、呼んで欲しいって思っちゃった。
うっすらと涙で視界が霞む中、頷いて見せれば、先崎くんはほっとしたように息を吐く。


「じ、じゃあ普通に夜子、さん?あっ……(よる)は?でもこれもあだ名になるのか……」


どうしよう、と悩みだす先崎くん。

よる……か、今まで1度も呼ばれたことないけど──


「ううんっ、それがいいかも」
「そう?じゃあ……夜にする。とりあえず2人の時に呼ぶね。急に変えるとフジとか周りがなんか言いそうだし」
「確かにっ」


こうして、先崎くんが私を『(よる)』と呼ぶことになり、改めてまた学校で、と手を振ってわかれた。