あの桜の木の下で

「はるくん、次はお団子追加しよっか!」

「お前、どれだけ食べる気だよ……」

総司が満面の笑みで追加注文しようとした、その時だった。

――ガタン!

突然、団子屋の入り口が荒々しく開かれた。

「おい、お前ら。新選組の者か?」

入ってきたのは三人の浪士。全員が腰に刀を差し、明らかにただ者ではない雰囲気を漂わせている。店内の空気が一気に張り詰めた。

「……さて、どうだろうね?」

そうちゃんが団子を咥えたまま、のんびりと答える。

「とぼけるな……!」

一番前の男が鋭い目で睨みつける。

「この辺に新選組の奴らがいると聞いたんでな。見つけたからには、斬らせてもらうぜ。」

「……面倒なことになったな。」

俺はそっと手を刀の柄に添えた。

「春樹、外に出ようか。」

そうちゃんが立ち上がる。その顔からはさっきまでの穏やかな表情が消えていた。

「ちっ、逃げる気か?」

「団子屋で血を見るのは嫌だからね。」

そう言って総司は軽やかに店を出る。俺もそれに続くと、浪士たちもすぐに外へ出てきた。

――そして、静寂。

春の風が吹き抜ける中、俺たちは三人の浪士と対峙した。

「この人数差じゃ分が悪いんじゃないか?」

浪士の一人が不敵に笑う。

「別に?」

総司が、ゆっくりと刀を抜く。

「ねぇ、はるくん。」

「……なんだよ。」

「先に仕留めた方が、団子の追加分を奢るっていうのは?」

「……お前な。」

こんな時でもそれかよ、と言いたくなったが、そうちゃんの剣気が研ぎ澄まされているのを感じる。ふざけた口調の裏で、彼女はすでに"斬る覚悟"を決めていた。

「いいぜ……。」

俺も刀を抜く。

「お前ら――命が惜しけりゃ、今すぐ引け。」

「はっ、何を――」

シュッ!

俺の言葉が終わる前に、一閃が走った。

「ぐっ……!」

一番前の浪士の刀が弾き飛ばされる。そうちゃんの斬撃だった。

「次は外さないよ?」

にこりと微笑むそうちゃんだが、その目は獲物を狙う獣のようだった。

「な、なんだこいつ……!」

「斬れッ!」

残る二人が同時に襲いかかる。俺もすぐに応戦する。

――ガキンッ!

刀と刀がぶつかり合い、火花が散る。俺は一人の浪士の斬撃を受け止めると、すかさず蹴りを放った。

「ぐっ……!」

「隙ありだ。」

俺はそのまま相手の腕を斬りつけ、戦闘不能にする。

「おい、こいつ強ぇぞ……!」

残る一人が俺に狙いを定めるが――

スパッ!

「……え?」

次の瞬間、その浪士の体が崩れ落ちた。そうちゃんがいつの間にか背後に回り込み、止めを刺していたのだ。

「三人じゃ、ちょっと物足りなかったね。」

そうちゃんが刀についた血を払いながら、つまらなそうに呟く。

「お、お前ら……化け物か……!」

最後の浪士は膝をつき、戦意を喪失していた。

「……もう二度と新選組に手を出すな。」

俺はそう言い捨て、刀を納める。

「……さて。」

そうちゃんが笑顔で俺を振り返る。

「勝ったの、私の方が早かったよね?」

「は?」

「だから、はるくん、団子奢りね!」

「……お前な。」

結局、こうなるのかよ……。

俺は呆れながらも、団子屋へと引き返すのだった。