油小路事件を終えた後、新選組の隊士たちはその疲労を感じつつも、任務を続けていた。伊東甲子太郎の裏切りと戦闘の後、隊の士気は少しずつ回復し始めた。しかし、俺の心の中では、あの激闘の後に感じた不安が消えることはなかった。特に、総司の体調に関しては、いつも気になっていた。

総司は油小路事件を乗り越えた後、一時的に元気を取り戻したように見えた。訓練にも顔を出し、竹刀を振る姿も増えた。以前のような輝きを取り戻したかのように見えたが、俺の心の中には、どこかしっくり来ないものがあった。

ある日、訓練が終わり、屯所に戻った時のことだった。

「そうちゃん…大丈夫か?」俺は総司が休憩所で休んでいるのを見かけて声をかけた。

「うん、大丈夫。」総司は微笑んで答えるが、その顔色はやはり良くなかった。顔が少し青白く、目に力が感じられない。

「無理しない方がいいんじゃないか?」俺は心配して言った。

「大丈夫だよ。心配しなくていい。」総司は軽く笑って答えた。しかし、その笑顔にはどこか虚しさが感じられた。

その後、総司の体調が再び急激に悪化するのは、思ったよりも早かった。

数日後、訓練が終わった後に総司が倒れるのを目撃した。最初は疲れただけかと思ったが、どうやらそれだけではないようだ。顔色は一段と悪く、額には冷や汗が滲んでいる。

「総司!」俺は急いで駆け寄り、彼女の肩を支えた。

「……春樹、ちょっとだけ、休ませて。」総司は弱々しい声で言ったが、その声は明らかにいつもとは違っていた。

「こんなところで休むな。寝室に運ぼう。」俺はすぐに総司を支えながら、寝室へと向かう。

その時、近藤さんや土方さんも駆けつけてきた。

「総司、大丈夫か?」土方さんが心配そうに尋ねる。

「体調がまた悪化しているようです。」俺が答えると、近藤さんはすぐに命じた。

「すぐに手当てをしろ。何か原因があるはずだ。」近藤さんの命令は冷静だが、どこか焦りを感じさせた。

医師を呼び、総司の状態を診てもらった結果、驚くべき事実が判明した。

「彼女は過労が原因で、内臓にかなりの負担がかかっているようです。」医師が静かに報告した。「池田屋事件、油小路事件……それらが直接的な原因となって、総司の身体は限界を迎えつつある。」

「……そうか。」土方さんが眉をひそめて言った。「今まで無理をしてきたからな。」

「だが、これ以上無理を続ければ、命にかかわるかもしれません。」医師はさらに言葉を続けた。「少しでも休養を取らないと、回復は望めません。」

その言葉を聞いた瞬間、俺は胸が締め付けられるような思いになった。

「総司、俺が守る。もう無理はしなくていい。」俺は彼女の手を握りながら、心から誓った。

総司はそれでも微笑みながら言った。

「春樹……心配しないで。私はまだ……戦えるから。」

その言葉を聞きながらも、俺はどうしても彼女を休ませることができなかった。新選組の名誉のために戦うという誇りが、彼女にとっては何よりも大事で、それが彼女を追い詰めていたのだ。

しかし、このままでは総司が壊れてしまう。俺は強く思った。

「お前には休養が必要だ。俺が必ず守るから、少しでも体を休めてくれ。」俺は総司の手を強く握り、もう一度言った。

総司はしばらく黙っていたが、やがて静かにうなずいた。

「……ありがとう、春樹。」

その言葉に、俺の心は少しだけ軽くなったような気がした。だが、総司の体調が回復するまで、どれだけの時間がかかるのか、それは分からなかった。

新選組として、そして総司を守るために、俺はどんな困難にも立ち向かう覚悟を決めた。それが、俺の役目だと信じていたから。

総司の体調が回復するまで、俺たち新選組はさらなる試練に立ち向かうことになる。その先に何が待っているのか、誰も予測できなかった。しかし、総司が一日でも早く回復し、再び剣を振ることができる日が来ることを、俺は心から願っていた。