あの桜の木の下で


数日後、伊東甲子太郎の動きはますます怪しくなり、俺たちはますます警戒を強めていた。屯所の外で見かける彼の行動は、以前よりも頻繁で無遠慮なものとなっていた。それに加えて、彼が密かに会っている相手や、交わしている言葉の内容について、次第に明確な手がかりがつかめるようになってきた。

ある晩、俺とそうちゃん、そして数名の隊士は、伊東が再びある人物と接触するのを目撃した。夜の静けさの中、俺たちは遠くからその会話を耳にした。

「伊東、あの男とは何者なんだ?」俺が低くつぶやくと、そうちゃんは慎重に周囲を確認しながら答えた。

「わからない。ただ、何か重大なことを話しているのは確かだ。」

俺たちは木陰に身を隠し、その会話を静かに聞き続けた。だが、何も聞き取ることができないまま、会話は途切れ、伊東とその男は別れ、姿を消してしまった。

「……おかしいな。」俺は苛立ちを隠せずに言った。「こう何度も会うのに、肝心な部分がわからない。」

そうちゃんは黙って頷きながら、何か考え込んでいた。

「春樹、あの男、見覚えがある。」彼女がそう言った。

「え?」

「顔は見えなかったけど、あの身のこなし、話し方……もしかしたら、以前、某藩から逃げてきた者かもしれない。」

俺は驚きの表情を浮かべた。「それは……大きな手がかりだな。」

そうちゃんは冷静に頷いた。「そう、だから、このまま黙っているわけにはいかない。伊東がその男と関わっているということは、何かが起きる前触れだ。」

その夜、俺たちは伊東の動向をさらに注視することにした。だが、次に起こった出来事が、我々の予想を遥かに超えていた。



翌日、屯所に戻ると、近藤さんと土方さんが深刻な顔で待ち構えていた。俺たちは何も言わずに、その場に立ち止まった。

「春樹、総司。」近藤さんが口を開く。「伊東のことで、重大な情報が入った。」

俺たちの目が一斉に彼に向けられた。

「何があったんですか?」そうちゃんが急かすように言う。

「伊東甲子太郎、裏切り者だ。」土方さんが重い言葉を落とす。

その言葉に、俺たちはしばらく動けなかった。裏切り者――その言葉が頭の中で繰り返される。だが、土方さんは冷静に続けた。

「今、伊東が会っていたのは、幕府の命を受けて動いている者たちだ。つまり、俺たち新選組を裏切り、我々を潰すつもりでいる。」

「……なんだって?」俺は言葉を失った。

「俺たちを敵に回して、あの男は何を目指している?」そうちゃんが鋭く問いかけた。

近藤さんは深いため息をつき、顔をしかめた。「伊東の計画は、これから本格的に始まるだろう。だが、それを止めるのは我々の役目だ。」

土方さんも強い意志を感じさせる目で言った。「今すぐ動かないと、間に合わない。お前たちも、準備をしろ。」

俺たちはすぐに動き出した。新選組として、伊東の裏切りを阻止し、京を守らなければならない。



夜、再び伊東が動き出した。俺たちは彼の後を追うため、慎重に行動を開始した。伊東の足取りを追いながら、その背後に隠れていた男たちの動きも見逃さなかった。

「見つけたぞ。」そうちゃんが低くつぶやく。「あの男、確実に裏で手を引いている。」

俺たちは息を潜め、さらに進んだ。伊東の後ろには、確かに何かが動いている。それが何なのか、今すぐにでも知る必要があった。

「伊東、これで終わりだ。」俺は心の中で決意を固めた。

その瞬間、静かな夜の中で、決定的な動きが始まった。