――1864年6月5日、京の夜は静かにざわめいていた。
「春樹、準備はいい?」
「もちろんだ。」
俺は刀の柄を握りしめる。
新選組は今夜、"池田屋"に潜む尊王攘夷派の志士たちを討つため、行動を開始する。
「いいか、お前たち。」
土方さんが低く、しかし力強い声で言った。
「池田屋に潜んでいるのは、幕府を転覆させようとしている連中だ。だが、敵の数は多い。決して油断するな。」
「はい!」
俺たちは緊張を押し殺しながら頷いた。
池田屋へ突入する隊は、近藤先生を筆頭に、そうちゃん、永倉さん、藤堂さん、そして俺を含めたわずか十数名。
大人数では目立ちすぎるため、本隊は後から合流する手はずになっている。
「それじゃあ、行こうか。」
そうちゃんがいつものように軽く微笑んだ。
俺は深く息を吸い込み、闇に包まれた京の街へと駆け出した。
池田屋突入
池田屋の前に着いた俺たちは、息を潜めて様子をうかがう。
「……中にいるな。」
永倉さんが静かに言った。
「ここが正念場だな。」
近藤先生が深く頷くと、
「――突入する!」
その号令とともに、俺たちは一斉に池田屋へなだれ込んだ。
「新選組だァァ!!!」
――戦闘開始。
「な、何ィ!?」
「くそっ、新選組が来やがった!」
志士たちは慌てふためくが、すぐに刀を手に取り、応戦してくる。
「随分と賑やかだねぇ!」
総司が楽しそうに笑いながら、目にも止まらぬ速さで敵を斬り伏せていく。
「ッ!」
俺も敵の一人を斬り捨て、さらにもう一人の剣を受け止めた。
「こいつ……!」
「甘い!」
俺は力任せに弾き返し、刃を喉元へ突き立てる。
「ぐっ……!」
血が飛び散る。だが、戦いはまだ終わらない。
「おらぁ!!」
永倉さんが渾身の一撃で敵を薙ぎ倒す。
「藤堂、大丈夫か!?」
「なんとか……! けど、こいつら、まだまだいるぞ!」
池田屋の中は阿鼻叫喚の地獄絵図。俺たちは数で劣るが、一瞬たりとも気を抜くことはできない。
――その時。
「おい!二階に奴らの幹部がいるらしい!」
誰かが叫んだ。
「俺が行く!」
総司がすぐに階段を駆け上がろうとする。
「待て、俺も行く!」
「春樹……いいね、一緒に行こうか。」
俺と総司は互いに頷き、二階へ駆け上がった。
池田屋二階――志士の幹部たち
二階に上がると、そこには数人の男たちがいた。
「チッ、新選組め……!」
「このまま捕まると思うなよ!」
男たちは刀を構え、襲いかかってきた。
「フフ、面白くなってきたねぇ。」
総司が無邪気に笑う。
「春樹、どっちが多く斬れるか、勝負しようか?」
「そんな余裕があるのかよ!」
「もちろん♪」
総司は一瞬で間合いを詰め、敵の一人を切り裂いた。
「くっ……!」
俺も負けじと、目の前の敵を斬り伏せる。
だが――。
「……!!」
視界の端に、一人の男の姿が映った。
「お前は――!」
影ノ牙の残党……天野の弟、天野隼人だった。
「新選組……沖田、そして春樹……兄の仇だ!」
隼人は憎悪に満ちた目で俺たちを睨む。
「……まだいたのか。」
総司が冷たい視線を向ける。
「お前の兄貴は、俺たちの手で倒した。それがどうした?」
「黙れェェェ!!」
隼人が叫び、俺たちに斬りかかる。
「春樹、私がやるよ。」
総司が前に出る。
「……気をつけろ。」
「うん。でも、すぐ終わるよ。」
――次の瞬間。
「うおおおお!!!」
隼人が総司へ猛然と斬りかかる。
だが、総司の剣は見えなかった。
「なっ……!?」
隼人の動きが止まる。
「……悪いけど、もう終わったよ。」
総司の刃が隼人の胸を貫いていた。
「が……は……」
隼人は血を吐き、そのまま倒れ込んだ。
「終わりだね。」
総司が刀を振り払い、血を払う。
「……さすがだな。」
俺はそう呟いた。
「さて、そろそろ下に戻ろうか?」
「……ああ。」
決着、そして――
二階の敵を全滅させた俺たちは、下へ戻った。
そこではすでに、池田屋の志士たちは壊滅しつつあった。
「近藤先生、終わりました。」
「おぉ……! これで奴らの計画は潰えた!」
「新選組の勝ちだ!」
藤堂さんが叫ぶ。
「ふぅ……なんとか終わったな。」
永倉さんが刀を収めた。
俺も総司も、それに続く。
池田屋事件は、新選組の大勝利に終わった。
だが、この戦いは終わりではない。
新選組は、さらに激動の時代へと突き進んでいく――。

