あの桜の木の下で


――刀がぶつかり合う音が響いた。

京の郊外、朽ちかけた寺の境内。俺たちはここで"影ノ牙"との最後の戦いに挑んでいた。

「チッ……しぶとい連中だな!」

闇に紛れるように動く浪士たち。だが、新選組は正面から彼らを迎え撃つ。

「春樹、右!」

総司の声が飛ぶ。

「分かってる!」

俺は振り向きざまに刀を振るい、飛びかかってきた敵の刃を弾いた。

「ぐっ……!」

相手の体勢が崩れる。迷うことなく、俺は踏み込んだ。

ズバッ!

「が……あ……」

敵が倒れる。だが、まだ終わりではない。

「フフ……さすがは新選組。」

境内の奥から、一人の男が現れた。

黒い装束に身を包み、冷たい眼光を宿した長身の男――影ノ牙の頭領、天野朔夜。

「やっと出てきたか。」

俺は刀を構え直す。

「随分と仲間を減らしてくれたな……だが、それもここまでだ。」

「それはどうかな?」

総司が前に出る。

「影に生きるなら、影のまま消えればいいのに。」

「フッ、相変わらず生意気な口を叩く。」

天野はゆっくりと刀を抜いた。

「沖田総司……そして、お前が春樹だな。」

「俺の名前を知ってるのか?」

「当然だ。お前たちを倒せば、新選組の力は大きく削がれる。」

「なるほどね……じゃあ、お前を斬れば、影ノ牙は終わりってことか?」

俺の言葉に、天野は不敵に笑う。

「試してみるがいい……だが、俺を倒せると思うな!」

――戦いが始まった。

天野は目にも止まらぬ速さで間合いを詰め、一閃を放つ。

ヒュッ!

「くっ……!」

俺は紙一重で避けるが、頬に一筋の傷が走った。

「甘いな。」

「ッ……!」

天野の剣は速い。だが――

「春樹、左から行くよ。」

「分かった!」

総司が右から、俺が左から同時に仕掛ける。

「フン!」

天野は軽やかに後ろへ跳び、同時に鞘で地面を叩いた。

バシュッ!

目くらまし――!

視界が砂煙に包まれる。

「くっ……!」

「遅い。」

天野の声が背後から聞こえた。

「春樹、伏せて!」

総司の声が響く。俺は反射的に身を低くした。

シュッ!

「……ッ!」

次の瞬間、天野の刀が俺の頭上をかすめた。

「チッ……!」

天野がバックステップで間合いを取る。

「フフ、さすがに二人同時に相手をするのは厄介だな。」

「だったら、そろそろ終わらせようか?」

総司が微笑む。

「……言うじゃないか。」

天野の目が鋭く光る。

――次の瞬間、総司の姿が消えた。

「なっ……!」

「――遅いよ。」

気づいたときには、総司の刃が天野の喉元に突きつけられていた。

「……ッ!」

「動いたら、貫くよ。」

総司の声は冷たい。天野は歯を食いしばった。

「……フッ、やるな。」

だが、天野は目を閉じると、ゆっくりと両手を上げた。

「俺の負けだ……好きにしろ。」

「……。」

俺と総司は視線を交わす。

「春樹。」

総司が俺を見る。

「お前がやる?」

俺は天野を見据えた。

「……いや。」

俺は刀を下ろした。

「こいつは、近藤先生に預けよう。」

総司は少し驚いたようだったが、すぐに微笑んだ。

「ふふ、春樹は優しいね。」

「……違うさ。俺はただ、最後まで"武士"でいたいだけだ。」

――こうして、影ノ牙との戦いは終わった。

天野は新選組に捕らえられ、影ノ牙は事実上壊滅した。

俺たちはまた、新たな戦いへと向かっていく。

それが、新選組の生きる道だから。