黙ってしまったオレを庇うように、理事長が言葉を繋いでくれた。


「君も彼女のことが知りたいのなら、彼女自身から話を聞いてくれ」

「……あの、そもそもなんですけど。あいつの口から聞かないといけない理由って、何かあるんですか」

「それは……」

「それは、何一つ間違った情報を聞いて欲しくないから」

「え」

「それは、何一つ、他人の感情や考えを聞いて欲しくないから」

「……ひ、なた……?」

「正しい情報だけを聞いて、それから、あいつを助けたいかを決めて欲しいから」

「は? そんなの聞かなくったって、俺はあいつを」

「自分一人で決めて欲しいんだ。あいつが、……どんな奴であろうと」

「は?」

「……どうか。あいつを助けてやって欲しいんだ」

「日向……」


 これ以上は言えない。これは、オレの口からは言えないことだ。
 これ以上は言えない。これは、……言いたくないことだから。


「そうだ。二人にいいもの見せてあげるね」


 そう言って理事長は立ち上がり、例の隠し扉へと向かった。そこから出てきたのは、オレが以前見せてもらった二つの木箱。


「これはね、ぼくの『願い』なんだ」

「……! ね、がい……?」


『願い』という言葉にツバサが反応するけれど、理事長は小さく笑うだけ。パカリと、まずは偽物の花の装飾がたくさん施された方の箱を開けた。


「ん? ……青い薔薇、ですか?」


 そこにはもう、願いを叶えられた花たちはいなかった。それもそうだろう。だってあいつは、きちんと叶えたんだから。


「この箱は、囚われの象徴なんだ」

「へ?」


 きっとツバサにはわからないだろう。でも、オレはもうちゃんとわかってる。


「表向きは綺麗だ。それはもう、とてもね。でもね、それじゃダメなんだよ。暗いところ、汚いところ、弱いところ、つらいところ、悲しいところ、寂しいところ。そんなものを、見えないように見えないように隠してるだけじゃ、何の解決にもならないんだ」

「………………」

「でも、それはもう、固く閉ざされた花びらの中だ。こじ開けようとしても、近い者たちには開けることさえ許してくれない」


 近い者、か。確かに、オレらにとって理事長やキクは近い。昔からの知り合いだ。


「だからぼくは、固く閉ざされた花びらを、こじ開けてくれるお願いをしたんだ」


 確かに、あいつはこじ開けた。それはもう、……力強く。


「(でも、こじ開けるだけじゃないんだ、あいつは)」


 確かに、半ば強引の時だってある。でも、花びらに触れる直前は、すごくやさしいんだ。温かいんだ。


「(それで、オレらと一緒に開けてくれるんだ)」


 そう。最後は、……一緒に。開いた汚い部分でさえ、あいつはやさしく包み込んでくれる。
 ……そんな、誰よりもやさしいあいつの花が。一番固く閉じられている。そして、枯れていこうとしてる。黒くなろうとしてる。


「(……それだけは、絶対にさせない)」


 それから理事長は小さく笑って、一回り大きな何の装飾もない箱をゆっくりと開けた。