すべてはあの花のために➓


 片付けを終え、解散し終わったあと、ツバサと二人で理事長のところへと向かう。どこかにやついててムカつく理事長の脛に一蹴り入れて、理事長室へとオレらは移動した。


「理事長。俺は、あいつに救われました。信人さんに、話を聞いたんです」


 ドスッとソファーに座り込むツバサが、必死に理事長が話せるまでのことを引き出そうとしている。
 ……でも、ダメなんだって。ツバサ。言ったじゃん。あいつから聞こうって。


「聞いたんだろう? 信人くんに。そこまでしか、ぼくも言えないよ。彼女のことは」

「……あいつに、聞きたくても話してくれないんです」

「………………」

「でもあいつ、だんだん冷たくなってて。運命が迫ってるんじゃないかと思うと、焦って……」

「だからって襲うのはおかしいでしょうよ」

「は? そんなのもう、時間がないなら無理矢理するしかねえだろうが」

「無理矢理聞き出そうとしたところで、あいつが話すと思う?」

「……っ、だったら! なんでお前は知ってるんだよ……!」


 そう言うツバサに、理事長は目を見開く。


「……日向くん。翼くんに、言ったの?」

「っ、理事長も、こいつが知ってることご存じなんですね」

「え? まあ、いろいろとね……」


 言葉に少し詰まる理事長に、ツバサが怪訝な顔をする。


「なんなんですか二人して! 知ってるんなら教えてくださいよ!」

「……そうしてあげたいのは、山々なんだ」

「でもねツバサ。こればっかりは、ちゃんとあいつの口から聞いて欲しいんだ」

「……! ……日向。なあ。どういうことなんだよ」


 今にも泣き出しそうなツバサが、縋るようにオレを見てくる。


「……翼くん。日向くんはね、みんなとはスタートラインが違ったんだ」

「……どういう、ことですか」

「でもラインは違えど、まだそこに立つことはできていなかった。それは、翼くんも同じ」

「……今俺は、そこに立てたと思うんです」

「そうだね。……君も、かっこよくなった」

「……っ」


 立てたとしても、遅すぎたと思っているんだろうか。


「大丈夫だ翼くん。きっと彼女のことを知れる時が来る」

「そんなの。あいつは話してくれない……」

「諦めるの」


 お前は知ってるからいいけどな……! って目で、めちゃくちゃ睨んでくる。怖い怖い。


「まだ、言えないんだ。その時が来るまで」

「その時っていつだよ」

「……5月10日には必ず?」

「は? き、きっちりそこは決まってるんだな」

「日向くん……」


 理事長が何か言いたげな様子でオレの名前を呼ぶけど、それは最終的にの話だ。ま、そうする気満々でオレはもう動いているけど。


「ツバサ、諦めないで欲しいんだ」

「日向は、一体何を知ってるんだ」

「何を、か。……何を、オレは知ってるんだろう」

「め、めっちゃ意味深……」


 だって、知ってるとばかり思っていた。誰よりも、あいつのことを。でも、いざ蓋を開けてみれば、話は奥へ奥へと繋がっていた。